モータウンが残した永遠のマジック(2)
モータウンのシステムを壊したのは、マーヴィン・ゲイとスティーヴィー・ワンダーだと考えることもできる。61年にベリー・ゴーディJrに見い出され、〈キッズ版レイ・チャールズ〉として過ごしたスティーヴィーは、クラレンス・ポールの後見を得ながら徐々に自立した存在としてエスタブリッシュされていき、さまざまな楽器演奏やソングライティングにも習熟していく。その向上心と天賦の才がやがてシステムには収まらない存在となっていったのだ。
一方のマーヴィン・ゲイはいきなり目覚めたような雰囲気がある。ジェントルでハンサムなスターとして60年代を過ごした彼はデュエット相手だったタミー・テレルの死を契機に隠遁し、ヴェトナムから帰ってきた弟に戦地の話を訊くなどして編み上げたコンセプトを軸にして、71年に『What's Going On』を完成させている。完成当初ベリーにコキ下ろされたというこの作品が、そのメッセージ性も含めていわゆる〈ニュー・ソウル〉の扉を開いた歴史的傑作である……とかいう常套句はともかくとして。シングル主導ではなくアルバム・トータルでの完成度を高めた点や、ファンク・ブラザーズの面々を含むミュージシャンが初めて(!)クレジットされたことなど、同作はモータウンの過去のシステムを否定するものでもあった。この先例を元にスティーヴィーらがより作品性を重んじた活動に入っていくのは衆知のとおりだ。
マーヴィンとスティーヴィー、このまったく異なった才能を持つふたりが醸した雰囲気から、70年代モータウンの曖昧なイメージを形成している人は多いと思う。ただ、管理体制が崩壊したこの時期のモータウンには、レーベル固有のサウンド・フォーマットみたいなものは存在しない。傘下レーベルも多角化し、音楽性も多岐に渡るようになっていたからだ。そのなかで唯一の例外だったのがジャクソン5だろう。69年末に“I Want You Back”でNo.1デビューを飾った彼らを手掛けたのはベリーを含むコーポレーションというチームだったが、やがてジャクソン5も音楽的エゴの目覚めと共にレーベルを後にしている。
話が前後するが、ハリウッド進出も睨んだベリーは、モータウンの機能をデトロイトからLAにジワジワ移転させ、72年6月に移転を完了させた。このLA移転によって、60年代の栄光を支えた多くのスタッフがレーベルに別れを告げ、レーベル・カラーのようなものはいっそう薄まっていった。80年代に入ると、ライオネル・リッチーやリック・ジェイムス、デバージら新しい顔ぶれがレーベルを代表するスターとして活躍。しかし88年、ついにベリーはポリグラムにモータウンの株を売却。世界を席巻したインディー・レーベルはその歴史に幕を下ろしたのだった。もちろん、現在もモータウンは活動を続け、いまなおその名を音楽シーンに留めている。それがかつての姿とは異なろうと、時代を超えた特別なマジックを期待させる何かがそこにはあるのだ。
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