ジル・スコットのソウルは燦然と輝く(2)
エナジーが尽きるまで
今作にはファースト・アルバムを支えた最強のプロデュース・チーム(ジェイムズ・ポイザー、アイヴァン&カルヴィン、ドレ&ヴィダルら)も参加してはいるが、先述の“Golden”をアンソニー・ベルが手掛けているように、新たなプロデューサー/ミュージシャンの起用が目立つ。ジルはその理由を「自分が成長してるから」と語る。
「これまで仕事してきたプロデューサーには忠実でいるつもりだけど、これからも新しい才能は探し続けていきたいと思ってる。新しい出会いはいつもあるわ。道でCDを手渡されることはしょっちゅうだし。アンソニー・ベルは旦那が紹介してくれた人だし、オマリ・シャバズはもともとライヴでCDをくれた人なの。ピーナットはオハイオ州出身なんだけど、彼がATOJのスタジオに仕事をしに来てる時に、私がたまたまスタジオに顔を出してて、彼の音楽がすごく気に入ったからいっしょにやったの」。
思えば、前作に関わった面々も当時はほぼ無名の存在だったわけで、つまりはただ音楽を重要視する、ということだろう。ゆえに“Spring Summer Feeling”でラファエル・サディーク(とケルヴィン・ウーテン)を起用しているというトピックも彼女にとって特別なことではないようで、「以前から面識もあったし、もともと彼の音楽がずっと好きだったのは確か。でも、彼が誰を手掛けた人だとか、そういうことは気にしてないわ」と話す。
ともあれ、彼女言うところの「新しい出会い」はそのまま彼女の音楽の進化に直結した様子だ。ヒップホップ・ビートからスウィング・ジャズ風のものまで、結果的にヴァラエティーを増したアレンジも本作の大きな聴きどころとなっている。
「私はアレンジにもきちんと関わってるけれど、いろんな音が出来上がったのはただの自然な流れ。特に仕掛けはないわ。私はエナジーが尽きるまで何曲も作り続けるのね。前回のアルバムの時は57曲、今回は60曲作ったんだけど、作るだけ作ったなかからひとつひとつ選んでいくの。パズルを継ぎ合わせるみたいに、くっきりと形が浮かび上がることを祈りながらね。で、今回はすごくサウンドに幅のある曲が集まったものになったってわけ。次のアルバムはまた凄く違うものになるわ」。
さて、ジルの登場と時を同じくして活気づいた〈ネオ・フィリー〉だが、自身がその中心にいるという自負、あるいは自身の音楽がフィリーの現状を世に伝えたという意識はあるのだろうか?
「ええ、あるわ。それにフィリー出身の人はみんなフィリーを代表する存在になりたいって思ってるんじゃないかしら。フィリー出身の人で〈フィリーなんて大嫌い!〉って人はほとんどいないはずよ。そういう人は他人と違って見せたいから言うんだと思う(笑)。フィリーは〈頑張ってるね! 応援してるよ!〉ってお互いを素直に励まし合える場所よ」。
なるほど。でも、そんなヴァイブをシーンにもたらしたのは彼女自身でもある。今後挑戦していきたいことは?との問いに「自分の家のインテリアにもっと力を入れたいと思ってるわ(笑)」と答えるジルは本当に素敵な人だ。
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