奥田民生(2)
愛してやまないアイテムの集積
そうこうしているうちに21世紀がやってきたのだった。とはいえ民生に一切の力みなどはない。ただ、レコ-ドとライヴの関係性をライヴ・アルバムではなくオリジナル・アルバムで表現した『股旅』の次は、アルバム・ジャケットからしてカジュアルというよりフォ-マルであった。『GOLDBLEND』――違いのわかる男は、ル-ズなカッコ良さからタイトなカッコ良さも含めたものへと展開。50年代の簡潔なロックンロ-ルに先祖返りするかのような姿勢も垣間見せる。またプロデュ-サ-・ブ-ムの時もそうだったのだが、世の中の流れに背を向けているようで、しかし微妙に意識してるのが彼のやり方。ベスト・アルバムの流行の中、車にまつわる曲を集めた『CAR SONGS OF THE YEARS』をリリ-スすることに。車が大好きなことでも知られる彼にとって、それはごく自然にさまざまな形で曲の題材やタイトルのアイデアになってきたわけで……。思えば奥田民生の世界というのは、ギタ-とか車とかTシャツとか、みずからが愛してやまないアイテムの集積によって成り立っているのではと思う。こういう切り口でベスト・セレクション・アルバムが成立するということ自体、その証拠でもある。
2002年、『E』をリリ-ス。5人ものドラマ-が参加した、かつて例をみない豪華なセッションを経て完成された。これは彼にとって、最高の贅沢でスリルある実験でもあっただろう。結果、まとめられたアルバムは、バラバラなようで、まとまりがいい。というか、間にインスト挟んだりというまとめる作業を熱心にやったあたりが特徴なのだ。でも、そもそもは奥田民生という1人の人間から発せられたものだけに、最後はそこに戻ってひとつのカラ-となったのかもしれない。他のメンバ-の作品も並ぶバンド時代のアルバム作りから、否が応でも自分の色に染まるソロとなり、その後の数々の作品作りを経て、やがて『E』へ。そんな彼の音楽を巡る旅は、なんとも興味深いと思う。
このあたりまでくるともちろん記憶に新しいわけだが、忘れちゃならないのがO.P. KINGへの参加だろう。期間限定ゆえの後腐れのなさも手伝って、バンド魂炸裂のギザギザしたサウンドをぶちまける。10周年を前に、彼にとって思い出深い夏のイヴェントとなったことだろう。
そして今年、彼は区切りの年を迎えて精力的に活動を開始。“サウンド・オブ・ミュ-ジック”に始まるシングル3部作と、最新作『LION』をリリ-スすることになる。ちなみに“サウンド・オブ~”リリ-ス時は、昨今のCDの音質に関するさまざまな状況も考慮して、DVDも積極的に活用していこうとする姿勢を見せる。さらに最新シングル“何と言う”のカップリングには、これまでの作品を部分的にコラ-ジュして完成させた“人ばっか”という作品が収められていて、これは記念の年らしい粋なお遊びなのだった。
さて、ここからは彼の今後を予測してみることにしたい。ここのところの彼は、ル-ズというよりタイトな、小気味よい音楽性が強い気がする。てことは、また気楽でル-ズな感覚に戻っていくのかもしれない。でも、『股旅』の頃と今では年齢も環境も違ってきているわけで、このあたりは一概には語れない。いや、ル-ズかタイトか、なんて、そんな二者択一に限ること自体違うのかもしれません。そしてこの愛すべき〈イ-ジュ-★ライダ-〉(イ-ジュ-は30の意味)は、もう少しすると〈エフジュ-★ライダ-〉(エフジュ-は40の意味)としての音楽生活を謳歌し始めるわけで……。気がつくと、民生は上手に渋さを身につけるのか、はたまたギラつくのか……。とりあえず、最新作『LION』をしっかり聴き込むことにしたい。