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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2004年10月07日 13:00

更新: 2004年10月21日 16:55

ソース: 『bounce』 258号(2004/9/25)

文/山口 智男

100倍パワフルになった新作『Chuck』が見参!!


 新世代のパンク・ヒーローと謳われるその裏で、バンドはちょっとした危機──あるいはロック・バンドにはつきものの試練と言えるかもしれない──を迎えていた。元々、高校の同級生たちが夏休みの41日目に観た〈Warped Tour〉に刺激され活動を始めたサム41は、その後地道にライヴを重ね、ファン・ベースを築き上げるという草の根的な活動を経ずして、シングル“Fat Lip”とファースト・アルバム『All Killer No Filler』の大ヒットによって、アッという間にロック・シーンの頂点を極めてしまった。

 しかし、20歳そこそこの彼らには、まだ心の準備はできていなかった。加えて、3年の間ノンストップで続いたツアーと〈同じことばかり何度も訊かれる〉インタヴュー……セカンド・アルバム『Does This Look Infected?』を発表したとき、すでにバンドは心身共に限界ギリギリの状態に追い詰められていたという。

 そこで彼らは昨年10月にツアーを終えると、まず4か月の休暇を取った。ピアノを習いはじめた者、結婚した者、恋人とカリブ海に出掛けた者、曲作りに励んだ者……それぞれに休暇を楽しむと、彼らはその後5か月をかけてじっくりと新作のレコーディングを進めていった。

「前のアルバムはあまり時間をかけられなかったせいで、いま振り返ると〈もっとこうしたほうが良かった〉ってところがいくつかあるんだけど、今回は締め切りに追われることもなく作ることができたんだ。それがなによりも良かったね。スタジオに入る前にリハーサルを重ね、レコーディングを始めるときには、曲はすでに完璧に仕上がっていたんだよ」(デリック、ヴォーカル/ギター)。

 今年4月、反戦を訴えるドキュメンタリーを撮影するために訪れた内戦下のコンゴ共和国で、激しい戦闘に巻き込まれてしまった彼らを救出した国連のボランティア、チャック・ペルティエに敬意を表して『Chuck』と名付けられた最新アルバム。そこには前作を踏襲したパンキッシュなロック・ナンバーはもちろんだけれど、スラッシュ・メタルやその対極にあるともいえるバラードなど、これまで以上に多彩な楽曲が収められている。

「いろいろな意味でサム41の音楽性は多様化しているんだ」(デイヴ、ギター)。

「ピアノやストリングスといった、これまでに使っていない楽器も今回は使っている。そういう意味では、いままでで一番クリエイティヴな作品だよ」(スティーヴ、ドラムス)。

「こういうことを言うと驚かれるんだけど、普段僕らはパンクやヘヴィメタルばかりを聴いているわけではない。たとえばスピリチュアライズドとかオアシスとか、幅広い音楽を聴いているんだ。新作にはそういうバックグラウンドが反映されているんだ」(コーン、ベース)。

 そんな楽曲の多彩さに加え、1曲の中に複数の要素を詰め込むアレンジというか楽曲の構成も、より凝ったものになっている。また今回、デリックは囁くような歌い方にも挑戦、ヴォーカリストとしてもその成長をアピールしている。

「別にそういう作品を作ろうと意識したわけではないよ。俺が作った曲をメンバー全員で練り上げるという意味では、曲作りのプロセスはこれまでと変わらない。今回こういう作品になった理由は……とにかく、こういう作品を作るときだったとしか言えないな。歌い方にしたって自然にそうなっただけで、曲を作っているときはどんな歌い方にしようかなんて考えてないんだ。いろいろな歌い方を試したわけではない。ただ、シンガーとして成長しているという自負はあるよ。ずっとツアーを続けてきて、喉も強くなったと思うしね」(デリック)。

 ともあれ、最新アルバムはサム41らしさと彼らの新たなる挑戦、その両方を楽しめる充実した内容になっている。〈サマソニ〉のステージでもバンドの新しい挑戦──新曲へのファンの反応もすこぶる上々だった。それはきっと、休暇中にメンバーそれぞれが束の間の休息を楽しみながら、いま一度音楽に向かう情熱やその取り組み方を見つめ直した結果なのだろう。若いうちは闇雲に前に進むのもいい。しかし、時には立ち止まることも必要だ。それが予想以上の飛躍に繋がることもある。サム41の最新アルバム『Chuck』は、そんなことを物語っている。

▼サム41のアルバムを紹介

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