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ヴィム・ヴェンダースが映画「ソウル・オブ・マン」で描くブルースの魂(2)

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2004年09月16日 15:00

更新: 2004年09月16日 18:15

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/村尾 泰郎

「ソウル・オブ・マン」と3人のブルースマン

「スコセッシからブルースについての映画を作るという話を聞いて、彼といろいろ話し合ってみたんだ。そして私は自分のブルース・ヒーローたちの音楽について描いてみたいと思った」(ヴィム・ヴェンダーズ:以下同)。

 世界的な大ヒットとなった「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」ではキューバ音楽を取り上げたヴェンダース。彼が今回、ブルースの魅力を解き明かす案内係に選んだのは、スキップ・ジェイムスとJB・ルノアーだった。ブルースの情念を繊細なギタープレイで聴かせたスキップと、軽快なロッキン・ブルースが愛嬌たっぷりのルノアー。何年も彼らの音楽を聴き続けてきたヴェンダースは、彼らがどんな人間で、どんな人生を送ったのか何も知らなかったことに気付き、本編の題材に選んだという(「だからこそ、私にとっても彼らについて学ぶいい機会だった」)。

 さらにヴェンダースは、映画の語り部として、もうひとりのブルース・シンガーを登場させた。彼の名はブラインド・ウィリー・ジョンソン。生前の写真が一枚も残されていないという謎に包まれたブルースマンだ。

「ブラインド・ウィリー・ジョンソンの“Dark Was The Night”は20世紀を代表する名曲として、ヴォイジャー号に乗せられて宇宙に打ち上げられたんだ。私はこの曲が好きで、〈パリ、テキサス〉の撮影中、仮のサントラとしてこの曲をずっと流していた」。

 宇宙の漆黒に木霊するブルース。映画はそんなイメージ・シーンでスタートする。ナレーションを務めるのはブラインド・ウィリー・ジョンソン……といっても彼はすでに亡くなっているため、役者のローレンス・フィッシュバーンが担当。彼が演じるジョンソンの再現ドラマから始まり、やがてそれはスキップ・ジェイムスの、JB・ルノアーの、異なった時代を生きたブルースマンたちのドラマへ橋渡しされていく。そして、それぞれの物語の間に挿入されていくのが、現在活躍するアーティストによるカヴァー・パフォーマンスだ。マーク・リーボーによる“Dark Was The Night”から始まって、ボニー・レイット、ルシンダ・ウィリアムス、ニック・ケイヴ、ブルース・エクスプロージョン、そして映画「オー・ブラザー」の音楽を監修したTボーン・バーネットなど、数々のアーティストが偉大なる先人たちに敬意を表した。

「ハイライトのひとつがベックだった。彼はスキップ・ジェイムスの“I'm So Glad”と“Cypress Grove Blues”を演ってくれたんだが、毎回違うギター、違ったリズムで、二度と同じようにアレンジすることはなかった。ルー・リードの演奏も楽しかったね。彼はプレイのあいだ、ずっと微笑んでいたよ。バンド全員が至福に包まれていて、撮影はワンテイクで済んだ。ルーが微笑みながら演奏している光景を撮ることができてとても光栄だ」。

 そういった新しい解釈の演奏と対になる形で鮮烈に記憶に残るのが、生前に撮影されたルノアーの貴重なパフォーマンス映像だ。リヴィングのソファーにどっかり腰を下ろし、リラックスした表情のルノアーがギターを爪弾き歌う姿は、なによりも雄弁にブルースという歌、生き方、感じ方を全身で感じさせてくれる。なかでも“Voodoo Music”を演奏中に外で雷がゴロゴロ鳴り出すあたり、まるでブルースという神話に対する新しい注釈のようで鳥肌が立ってしまう。

 そういえばヴェンダースは、この映画のナレーションであるブラインド・ウィリー・ジョンソンの声を〈宇宙の声〉と説明した。そして、「(スキップ・ジェイムスは)観客の遙か彼方に向かって演奏していた」と熱っぽく映画の中で語っていたのは、彼の生前最後のマネージャー。ここに描かれたブルースはコズミックで人懐っこい。まるでキラキラ輝く男の星座。その輝きを「ソウル・オブ・マン」と呼ぶなら、こんなにピッタリなタイトルはないだろう。クロスロードから宇宙へ、ブルースは旅を続ける。

▼「ソウル・オブ・マン」に出演したアーティストの作品を一部紹介。

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