PUSHIM(3)
ひとつの領域に咲くいろんなもの
そんな彼女がデビューから5年の歳月を経て、「いまやったから出せたと思う。とにかく私の中では〈こういうレゲエもあるねんで〉っていうところで、〈出したいな〉っていうか〈出さなあかん〉と思った」という先行シングル“SOLDIER”でドカンとパンチを与えてくれるのは、ある意味象徴的だと思う。あくまでもレゲエのリズムでありながらロックの炸裂感が込められたサウンドに、腹の底から沸いてきたようなPUSHIMのヴォーカルの迫力。いままでにないテイストで衝撃を与えつつ、それでも結果として非常にキャッチーな仕上がりになっているのは、そこに彼女がみずからの手で切り拓いてきたPUSHIMというシンガーの普遍的な魅力があるからだろう。この曲を、PUSHIMがやるからこそカッコイイぞ!と思った人は多いはずだ。
また「もともとDJといっしょに歌うスタイルでやってきたコンビネーション・シンガーなんで。ひとりで歌うのもいいんですけど、ほかの人がいてるとそのぶん作るときに刺激を受けたりとか、あとは歌詞が半分だけでいいとか(笑)、いろいろとメリットがありますよね」という共演者陣も気になるところ。“SATISFACTION”ではなんとエレファント・マンが例のダミ声を響かせ、しかもワイクリフ・ジョンがギターをかき鳴らしているのだ。「作ってる途中で、ここにエレファント・マンの声が入ったら絶対カッコ良くなると思った」というフィーリングが、この曲にギラギラとした存在感を与えている。また、意外なことにFIRE BALLとの初のコンビネーションとなる“スタッカート・スタッカート”ではストーリー性のある駆け引きを見せている。「自分とは違う人になりきるっていうのは楽しい」という演技派PUSHIMだが、確かにいまのシーンを見渡してもこういう〈なりきりソング〉にここまでハマるアーティストは少ないだろう。特に女性では。
新境地としては、ソカ調の跳ねるリズムに乗った“Body&Soul ~ラガMe Baby~”に注目。こういう時代に対する鋭いセンスを見せるあたり、あっぱれ!と思わず膝を打ってしまう。「前回のアルバム(『Pieces』)のライヴから、ただただ踊って盛り上がれるパートを作っているんですけど、それがすごく楽しかったんです。それに代わるものを作ろうと思った」と言うが、確かにこの曲を聴いていると、オーディエンスがニッコニコしながら汗だくで踊っている図が思い浮かんできて、ついニンマリとしてしまう。ほかにも中学生のときに好きだったというレベッカのカヴァー曲“真夏の雨”で見せるダビーでビューティフルな世界観、そしてアルバムのエンディングを飾るバラード“a song dedicated”の心に染み込んでくる風景など、アルバムはラストまでレゲエが持つさまざまな顔をPUSHIMの力量でもって丁寧に表現している。
「すごくリラックスしてできた」という今作だが、気になるタイトルの『QUEENDOM』とは……。
「〈女帝〉みたいな〈ジャジャーン!〉という大袈裟なものじゃなくて、植物園をイメージしてるんですね。レゲエをベースの土にして、ルーツだったりりラヴァーズだったりダンスホール・チューンだったり……そういうものが咲き乱れている感じを想像していて。私の中では〈ひとつの領域に咲くいろんなもの〉みたいな感じ。いまの自分が詰まっているんです」。
なるほど、いまPUSHIM王国ではアンダーグラウンドに身を置いていた時から蒔いていたレゲエの種が、確かに色とりどりの花を咲かせているのだ。
▼『QUEENDOM』に参加したアーティストの作品および関連盤を紹介。
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