SONIC YOUTH
ついにソニック・ユースの〈NYトリロジー(3部作)〉ともいわれる作品群の完結編『Sonic Nurse』が完成した。グループも久々にシングルのプロモ・クリップを作ったり、TVの人気インタヴュー番組に出たりと、これまでにないほどプロモーションに積極的で、夏は〈ロラパルーザ〉をはじめ、ヨーロッパのフェスティヴァルにも出まくるという。確かに、いまやNYを代表するバンドになった彼らにとって、そして自分たちのスタジオから数ブロックのところで起きた〈9.11〉の衝撃を、どんなバンド、アーティストたちよりも重く、切実に受け止めた結果として、改めてNYに向かい合うことは自然であったろうし、それは結果として長いバンド・ヒストリーの大きな節目になった。4年前のアルバム『NYC Ghosts & Flowers』で、この街の地層深くに眠るアートの神々に爆音を振りかけ、そのアート霊を自分たちのスタジオに引き込んだ2002年の『Murray Street』では、ストリート・ジャズ・ミュージシャンらも交えて、さらに発掘と構築作業を鮮やかに同一化してみせた。そのゴールが今回の『Sonic Nurse』である。古い友人でもある画家リチャード・プリンスの描いたナース像(キム・ゴードン?)は、まるで現代の捉えどころのない心の病理に立ち向かう姿のようにも思えるが、しかしサウンドは明快だ。ノイズとカオスが一体化して一気に吐き出されてくる、いつものソニック・ユースもあれば、このところ封印されていた『Goo』で聴かせたようなコンパクトなポップ性を持ったものや、〈マライア・キャリー〉をネタに毒がこってり盛り込まれたものもありと、単に〈トリロジーの完結編〉という以上に、一つの集約点を示すようなアルバムにもなっていて素晴らしい。
これまで彼らのバンド史上、もっとも大きなセールスを記録した『Goo』、あるいは『Dirty』をキムをはじめとしたバンドは、懐疑的な総括をしてきている。結果としてグランジの時代を牽引し、ニルヴァーナの世界的なブレイクに象徴されるような状況を産み出しはしたが、しかし同時に豊かなインディー・シーンは、それまでとはかなり変わったものになっていった。ソニック・ユースそのもののマイペースな活動や、友人や世界中のネットワークをベースにした活動に変化はなかったものの、シーン全体の流れと無縁でいられるわけではなく、バンドの音楽性は、表層的には地味ながら、じっくりと進化/深化を遂げていった。その流れを大きく変えたのが、『NYC Ghosts & Flowers』のレコーディング前に、カスタマイズしてオリジナル・ノイズを創り上げるキーとなっていた器材がごっそり盗まれたことだった。必然的に原点に立ち戻らざるを得ない状況となった彼らは、災いを福に転じようと立ち向かった。その手助けをしたのがジム・オルークであり、彼が正式メンバーとなったことは〈NYトリロジー〉を決定的に象徴する出来事だった。
『Sonic Nurse』での彼らは、相も変わらず危険なノイズとエクスペリメンタルな空間を切り拓きながらも、そのノイズが同時に、この時代にあってとても心地良いものであることを伝えてくれている。毒にも治療薬にもなる、この時代のポップ・ミュージックを創り上げることに成功していると言い換えてもいいだろう。彼ら自身のカウントによると通算19枚目になるこのアルバムは、紛れもなくこの結成20年以上にもなるグループの一つの頂点となった。10年以上前になるあの日、100人ほどの観客と新宿ロフトで観たグループがここまでの歴史と大きな世界を構築するようになるとは想像もしなかった(そういえば最初のインタヴューはうどん屋だったっけ)。
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