PETE ROCK(2)
サンプリングにルールはないな
なかでもチャレンジングなのが、デッド・プレスと組んだ“Warzone”のバウンシーなビート・パターンだろう。
「エネルギッシュで、ホットで、パワフルだろ。凄くアップビートなクラブ・バンガーだよ。ビートの内にも怒りがこもってるんだ。俺はいつも予想外のことをやるのが好きなんだよ。〈ピートがこれを作ったの? 信じられない!〉ってリスナーを驚かせたいのさ。そう思われてないかもしれないけど、俺は万能でフレキシブルなんだぜ」。
そう語る一方で、盟友CLのラップとしっくり馴染む、最高のラヴリー・ループにとろけそうな“It's Love Thing”のような曲の安定感はやはり格別。こういうメロウなキラー・ループを閃かせて昔からのリスナーの期待に応えることも彼は忘れない。
「ああ。“Lot's Of Lovin'”とか俺たちの古いラヴソングを聴き返してたら、またそういう曲を作りたくなったんだ。CLとコンビで作った『Mecca And The Soulbrother』や『The Main Ingredient』を恋しく思ってるファンが喜ぶようなトラックを提供したかったのさ」。
そういったファンの要請は、ピート&CLの名曲“T.R.O.Y.”がMrチークスによってリメイクされるような現況にも現れているように思う。が、そのリメイクにも関わったピートはこう話した。
「実は俺のほうでも“T.R.O.Y.”をリメイクするためのアイデアがあったんだけど……チークスが先に形にして、俺に参加してほしいと言ってきたんだ。彼のリメイクに満足してないとは言わないけど、本当は俺があのトラックをプロデュースし直したかったし、もっと本当のことを言うと、あの曲は俺にとって凄くスペシャルなものだから、リメイクもしたくなかったんだ。あの曲は誰がやり直しても、オリジナル以上のものは作れないと思うよ。もちろんチークスをけなしてるわけじゃなく、ね」。
では、ピートにとってのサンプリング・ワークやリメイクなどのマナーや作法とはどのようなものなのだろう?
「俺には特にサンプリングにおけるルールはないな。正しい方法でサンプリングして、自分の能力が許す限り、良いトラックを作ればいいのさ。ダメな方法でやらなければ、俺の音楽をサンプルしてもらっても構わないよ(笑)。別の人がサンプリングしたネタをサンプリングすることもあるけど、違うやり方で使うだけさ。同じサンプルをチョップして、フリップして、まったく違うサウンドに仕上げるんだ。〈あれと同じネタだけど、まったく別のサウンドだろ?〉って証明するためにね」。
では、いまメインストリームで人気のサンプリング・ワーク、つまり、カニエ・ウェストやジャスト・ブレイズが流行らせている回転数を速めたソウル・ループのテクニックについては?
「カニエはクールだと思うよ。ヒップホップはイノヴェイティヴにやる方法がいくつかあるんだ。例えば、昔はあまりホーンの音をサンプリングしてる人はいなかったけど、俺がホーンの音の世界を探求してから、みんなホーンを多用するようになったんだぜ。カニエが45回転でサンプリングしてるのと同じさ。RZAもヴォーカルを45回転でサンプリングしてたわけだけど、カニエはそのバトンを受け取って、ゴールまで走りきったわけだ(笑)。それはいいことだし、間違ってないよ」。
どの発言にも、傲慢とも取られかねないプライドが滲む。今後いっしょに仕事をしたい相手としてナズやディアンジェロから、ロイド・バンクス、50セントまでの名を挙げ、「いまは『Soul Survivor III』、そして、CLとのコンビでもアルバムを制作中なんだ」というピート。彼のビートが長年の患者のみならず、新たな中毒患者を増やしていくことは間違いなさそうだ。
▼最近のピート・ロック仕事を含むアルバム
▼『Soul Survivor II』に参加したアーティストの作品を一部紹介