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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2004年05月13日 13:00

更新: 2004年05月13日 19:15

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/一ノ木 裕之

珠玉のネタにタイトなブレイク、そしてキャッチーなフックの応酬!! 時空を超えてループの魔法をかける3人の登場!

ノスタルジックだと言われてもいいよ


「サンプリングは他人の作品から盗んでるって言う人がいるけど、現代のカルチャーはすべてがスロウバック(過去への回帰)でレトロなんだ。みんなが着てる服も履いてる靴も、デザインだってそう。ロックにしたって、60年代や70年代のようなものをやってるバンドが多いよね」(ジェイソニック、MC)。

「カニエ・ウェストは素晴らしいし、完璧なタイミングで、必要とされる時に出てきた。ただ、彼はヒップホップにおけるイノヴェイターだけど、過去にも同じ手法を使っていたプロデューサーはいたんだ。カニエほどコマーシャルに成功しなかっただけさ」(チョメル、MC)。

 2001年夏の自主デビュー以来、ここ日本でもアナログ・リスナーを中心に人気を得てきたジェイソニックとチョメル、メカレック(DJ/トラックメイカー)による3人組、タイム・マシーン。彼らは、過去とまったく隔絶したオリジナルな表現などありえないことを認識しながら、サンプリング・ワークというもはや真新しくはない手法をオーソドックスに操り、人肌温かい音楽を作っている。彼らはその音楽がノスタルジックに見えかねないことも十分自覚しているし、日本先行リリースとなった初のフル・アルバム『Slow Your Roll』においても、それはいままでのキャリアと変わらぬ形で表れている。

「90年代初期のヒップホップを聴いて育ったから、その時代へのオマージュもある。だからノスタルジックだと言われても批判だとは思わないよ」(チョメル)。

 しかし、彼らは自分たちの音楽でヒップホップの歴史の時計を戻そうなどとは毛頭思っていない。ましてや、いまのヒップホップが死んでいるなどとも。ヒップホップに興味を失いかけたジェイソニックの目をふたたび開かせたのは西海岸のヒップホップ・クルー、リヴィング・レジェンズにも名を連ねるグラウチだったとか。

「ビギー(ノトーリアスBIG)と2パックが死んでから才能のないラッパーが大勢出てきて、一時期の俺はヒップホップに落胆してた。それでしばらく離れてたんだけど、誰かがグラウチの音楽を聴かせてくれた。彼の音楽を聴いてヒップホップがまだ生きてるっていうことを実感したんだ。ヒップホップはすごく幅広いもので、カニエ・ウェストみたいな人もいたり、ダウン・サウスのものもあれば、自分たちでレコードをプレスしてる連中もいる。ちゃんと探せば自分が欲しいタイプのものが見つかるし、ヒップホップが元気だっていうことがわかるはずだよ」(ジェイソニック)。 

 過去を踏まえたうえでの自分たちなりの発見。サンプリングの作業とは、彼らにとって古きの中からいままで見い出されにくかった新しきを探す作業であり、これまでの積み重ねのなかから培った自分たちの姿を一変させることなく、地道な進歩を見つける作業なのだ。彼らは言う。

「マニアックな音楽からサンプリングするようにしてるし、そういう音楽を聴いたことがない人にそういう音楽の存在を知らせてるつもり。ただレコードから音を盗むんじゃなくて、新しい要素を加えることによって、サウンド・コラージュをやってるんだ」(ジェイソニック)。 

「いままでやってきた範疇からは完全に離れないようにしながら、俺たちは常に違うことをやろうとしてる。俺たちの音楽性の枠を守りたいからね」(チョメル)。

「意味もなくいろんな方向に進むんじゃなく、一歩ずつ自然に進化していきたいんだよ」(ジェイソニック)。

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