Chicago Soul
キッカケはR・ケリーの“Step In The Name Of Love-Remix”だっただろうか。シカゴならではの音の質感や空気感が、時を経ても確実に存在するのだなと気づかせてくれたのは。プロモ・クリップでも得意気にシカゴをアピールしていたR・ケリーの同曲における軽やかなステップ感やグルーヴ感は紛れもなくシカゴ・ソウルならではの音だ。盟友ドニー・ライルによる軽やかなギターや弦アレンジャーのポール・ライザー(この人はデトロイト人脈だが)による涼やかで煌めくようなストリングスの音色を聴いていると、実にこれが80年前後のシカゴ・ソウル、特にシャイ・サウンド・レーベルの楽曲を思い起こさせる。例えば同レーベル傘下から登場したウォルター・ジャクソン81年の名曲“Touching In The Dark”を聴いてみると……風の街シカゴのウィンディー・シティー・グルーヴが20年以上の時を経てR・ケリーに乗り移ったと感じるはずだ。そういえば、R・ケリー、それにアヴァントらスティーヴ・ハフ絡みの作品では、70~80'sシカゴ・ソウルの名門スタジオのひとつであるシカゴ・レコーディング・カンパニーでも録音が行われているという興味深い事実も。スティーヴ・ハフにおいては、40年もの昔からシカゴ・ソウルの管弦アレンジを手掛けてきたトム・トムことトーマス・ワシントンを積極的に起用して、あの流麗なグルーヴを紡ぎ出している。かつてシカゴ・ソウルの雄であるシャイ・ライツのメンバーは、シカゴの曲に宿る空気を「ギャングの街が持つ粋でいなせなヴァイブ」だと話していたことがあった。シカゴ出身のデイヴ・ホリスターの『Chicago '85...The Movie』は実にそんなムードを描いた作品だったが、歌い手が持つダンディズム、これもシカゴの特色のひとつ。R・ケリーやカール・トーマス、そして詩人のマリック・ユセフに至るまで、風の街が育んだ歌声は、とてつもなくクールで逞しい。
▼現代版シカゴ産R&Bが聴ける作品
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