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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2004年04月08日 14:00

更新: 2004年04月08日 18:47

ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)

文/JAM

俺は〈キング〉の称号に値する存在だと思うんだ


予感、予想、予測。アッシャーのニュー・シングル“Yeah!”はそのすべてが的中しまくり、予定どおりの大ヒットとなった。この煽りを受けてのリリースなわけだから、ニュー・アルバム『Confessions』が爆発的なセールスを叩き出すのはもはや確実と言っていい。アッシャーほどのスーパースターともなれば、何かをやってくれてあたりまえ、つまり聴く側の期待値設定は現行R&Bアーティストのなかでも最上位に属し、それはほとんど最高値に近い。で、その期待値を楽勝で振り切ってみせたのが先の“Yeah!”である。何たってプロデュースと客演がリル・ジョンで、ゲストがリュダクリスで、みんなが体感してみたかったサウス産R&Bの挑戦形にして完成形で……とわずか1曲にこれだけのトピックが詰め込まれてるんだからなあ。恐らく本人も〈してやったり〉と思ってるに違いない“Yeah!”にまつわるエピソードから彼に訊いてみよう。

「リル・ジョンは個性の強い男だし、俺にとっては挑戦の意味もあってこの共演に挑んだんだ。歌がどこまでリル・ジョン的なヒップホップと渡り合えるか、そのバランスを活かせたらどんなカッコいい曲が作れるか、って。音だけ聴くとリル・ジョンっぽいけど、ヴォーカル・アレンジは間違いなく俺だってわかってもらえるハズだよ。彼はもともとジャーメイン・デュプリの下で働きながら、ソー・ソー・デフでA&Rをやってたからずっと知ってたけど、彼との最初の仕事は“You Make Me Wanna...”のリミックスだったんだ」。

 このとおり“Yeah!”のショッキングな録音もやはり彼の絵描きからすべては始まったのだ。スゲー奴だなー。歌の在り方が時代と共に変わっているということを、こんなにも鮮やかに教えてくれる人もそうそういないと思う。ただ、アッシャーは単に新しモノを追い求めるばかりではなく、その挑戦意欲を歌本来の芸術性を取り戻す方向へも向けていることを強調している。こんな具合だ。

「今回はシンガーとしてファルセットに挑戦してみてるんだ。これまでの偉大なミュージシャンたちに影響されてるし、いままでも彼らの素晴らしいところを採り入れようと努力してきたから、そういう人たちの影響がきっとこうやって出てくるんだろうね。マイケル・ジャクソンとか、プリンスとか、マーヴィン・ゲイにスティーヴィー・ワンダーとか」。

 さらに彼は今回の新作について意識的に取り組んだテーマを次のように語ってくれている。

「今回のアルバムでは〈自分〉をそのまま曝け出そうと思ってね。自分がやってきたことを恥じる必要もないし、そのまま赤裸々に語ろうというのがこのアルバムのテーマさ。(TLCのチリと)すごく真剣な恋愛をして、現在はシングルになっちゃったんだけど、自分の弱点もわからせてくれたその経験も含めて、自分に正直であることがどれだけ重要かってことに気付いたんだ。例えば、“Confessions 2”というインタールードがあるんだけど、そのなかで浮気してたことをガールフレンドに話す部分があるんだ。これは俺の実生活であったことでね。実際には一度も浮気がバレたこともないんだけど、正直に話すほうがいいと思って相手に打ち明けたわけ。相手にとってみてもそれがフェアだと思うし、知らなくて恥をかかせることもないし。それが俺なりの思いやりだと思ったんだ。それで理解してくれれば、俺の本当の理解者だから」。

 ちょっと待ってください、アッシャーさん。これって、発想の次元が違うと言うか、僕にとってみればかなりの独り善がり、本当に相手の気持ちを考えてのことなのかなあ……と疑ってしまいます。こんなことを平気で言えてしまうのはどこか歪みすぎてて、何だかスゴイぞ。で、彼はアルバム収録曲の“Superstar”という曲についてこんなコメントもしているのだが、真意は果たしてどこなの? みなさん、どうぞイロイロと想像してみてください。

「あの曲はね、好きな女の子に対して〈君は僕のスーパースターだよ〉っていう意味を込めた曲でね。ファンへ捧げた曲だよ」。

 しかも、こんなことまでおっしゃってくれています。

「アルバムは俺の愛の告白であり、人生の告白でもあり、心の痛みの訴えでもあるんだ。精神面でも過去のどのアルバムより安定した状態で作ったアルバムさ。すべて〈リアル〉だよ。100%嘘偽りなしのアルバムさ。ぜひこのアルバムを聴いて本当のアッシャーを知ってほしいね」。

 果たして、これがアッシャーの真の姿だとしたら、ファンの女性はどう思うのかなあ。かなり振り切れてます。う~ん。ちょっと気を取り直して、音楽的なことをもう少し深く訊いてみよう。まずはリル・ジョン以外の制作陣について。

「ジャーメイン・デュプリはずっとやってるアトランタの仲間だから。〈If it ain't broke it, don't fix it〉(壊れていないなら、直す必要もない)って言うだろ。いっしょにやるのは当然さ。リッチ・ハリソンはビヨンセやエイメリーのプロデュースが素晴らしかったから、俺から申し出たんだ。ジャム&ルイスはピカイチさ。俺の書いた曲が引き立つような音楽を作ってくれるし、俺の歌い手としての魅力もどんどん引きだしてくれる。ヴィダル・デイヴィスとアンドレ・ハリスも俺の資質をよく理解したうえで曲作りをしてくれたよ。何と言っても彼らがマイケル・ジャクソンとやった“Butterflies”は凄かったからね」。

 自分の音楽に対して抱いているプライドをいかにして具現化するか。アッシャーがそんな才にも長けていることはこうした発言からもよくわかる。しかも、そのプライドはこういう表現からも表出する。

「すでにR・ケリーが〈R&Bキング〉と言われてるけど、だったら俺がやってる音楽を言い当てた新しい言葉を作り出さないと。俺も絶対に〈キング〉の称号に値する存在であるはずだから」。

 日本人の感覚からすれば、ひとつも奥ゆかしくない発言ゆえに抵抗感もあるが、実は彼の言っていることはひとつも大袈裟じゃない。実際にそれだけのことをしてきてくれた人だし、今後も彼に対する期待値が下がることはありえない。何事も振り切れてくれる人なので、〈Shake Off Master〉なんて称号はどうでしょうか、アッシャー様。

▼アッシャーのアルバム

▼『Confessions』に参加したアーティストの作品

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