スーヴニール2001(2)
Greenwich Village Sound
映画「グリニッチ・ヴィレッジの青春」さながらに、自由な空気を謳歌できたコーヒーハウスとブリーカー・ストリート。ジャズ、ブルース&ソウル、ボサノヴァ、ビートニクな詩に囲まれて、知的で飾らないナイス・フォークスは歌い始めた。カジュアルな学生っぽさが魅力のフィフス・アヴェニュー・バンド、ピーター・ゴールウェイは小西のグリニッチ・ヴィレッジ幻想そのものだったという。
そしてジョン・セバスチャンのラヴィン・スプーンフル、ジェイムズ・テイラーやダニー・クーチのフライング・マシーン。S&G作ハーパース・ビザールでもお馴染みの“Feelin' Groovy”、セバスチャンの“Magical Connection”を若きピチカートが取り上げたのは、そんな時代の風情にあやかって。そう、フーテナニー・イン・モダン。“ハッピー・サッド”はヴィレッジの顔役だったバンキー&ジェイクに捧げられている。
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ジョン・セバスチャンのベスト盤『The Best Of John Sebastian』
Burbank Sound
ワーナー・ブラザーズが拠点とするハリウッド郊外バーバンクで、レニー・ワロンカーとその周辺スタッフが制作していたある種のアメリカ再発見サウンド。古き良き素材をノスタルジーから甦生させる手法は、ジャズだったりカントリーだったり映画音楽だったりと多彩。とりわけ抜群のハーモニーとトータル・コンセプト、選曲と構成の妙で際立つハーパース・ビザール『The Secret Life Of』は小西の座右の銘盤。ヴァン・ダイク・パークス『Song Cycle』の凝りに凝ったコラージュにも心酔していた様子。
また「Kiss, Kiss, Bang! Bang!」はモジョ・メン“Sit Down I Think I Love You”を翻案したかのようなファンシーなクリスマス・ソング。ニルソン『Pandemonium Shadow Show』からの度重なる引用も見逃せない。制作陣が大幅にダブるあのロジャー・ニコルズのA&M盤も言わば他社のバーバンク・サウンドか。
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French Music
〈Les Pizzicato Five〉と表記したこともあるくらいだから、小西のフランスへの思い入れもそれなりのはず。何よりも美しいフランス語の響きに惹かれるのだろう。世界で一番お洒落なカタログを持つレーベル、仏フィリップスの60年代の映画音楽やポップスのコンパクト盤など、その素敵な風合いのジャケットだけで、レコードという〈物〉に対する小西の限りない愛情とこだわりを刺激しないはずがない。
「今世紀最高のヴァカンス音楽」というジャック・タチの「ぼくの伯父さんの休暇」のテーマは、ピアノ、ヴァイブ、ギター、サックスがユニゾンでメロディーを繰り広げるジョージ・シアリングのクール・サウンドのフランス版。トーキョーズ・クーレスト・コンボのアイディアはここからだろう。「映画史上最高の音楽」と断言する「ロシュフォールの恋人たち」のときめくようなタッチ。「華麗なる賭け」などにも顕著なミシェル・ルグランの転調や変拍子、華麗なオーケストレイションは作編曲家・小西に影響大だし、スリリングな急速調&ユーモラスなヴォーカル・ナンバーはDJ小西がクリスチャンヌ・ルグラン系ジャズ・コーラスと共にしばしばクラブ・プレイ。「未来の音楽」シリーズではルグランの観光地ムード音楽のリイシューまで行っている。映画音楽では「男と女」「雨あがりの天使」「素晴らしい風船旅行」なども小西のフェイヴァリットとして知られるが、やはりゴダール。「勝手にしやがれ」のクール・サウンド風、「男性・女性」のシャンタル・ゴヤのフレンチ・ポップ、「気狂いピエロ」のアンナ・カリーナのシャンソン……。野宮真貴も夏木マリも歌った“私のすべて”の詞はもちろん「女は女である」のカリーナのあの歌のアダプトだ。
女優の歌ならジャンヌ・モローやジェーン・バーキンも。ブリジット・バルドーの“コンタクト”はテイ・トウワのプロデュースでカヴァー。そして「アイドル・ポップスの世界最高峰」フランス・ギャル。小西に負けないくらいキャッチーなネイミングの天才セルジュ・ゲンスブールとは、歌のうまくない女優やアイドルを手掛けた方が素晴らしいという点でも共通項が。
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ゴダールのサウンド・トラック集『Bandes Originales des Films de Jean-Luc GODARD』
New School Hip Hop
80年代後半、ヒップホップの持っている自由で開かれた可能性を、知的でヒップ、かつユーモアに富んだポップなアプローチで示したニュー・スクールという動き。「引用やコラージュをあからさまに肯定するヒップホップは、音楽でも映画でも自分が好きだったものに似てる」と思った小西は、その頃「ヒップホップのアルバムを聴いてゴダールのことを考える奴はボクだけじゃないんだ」と記している。
CDで映えるアートワークも鮮やかなデ・ラ・ソウルのクイズ番組仕立てのスキットやフランス語教材からのサンプリング、短いジングルやインターミッションを駆使したアルバム構成。ディー・ライトやノーマン・クックともリンクし、レア・グルーヴも踏まえカラフルなサンプリング・アートを繰り広げたトライブ・コールド・クエストの洒落たセンス。アナログ盤8面ジャケットという発想が何よりもピチカート的なビースティー・ボーイズ『Paul's Boutique』。これらがマルコム・マクラレンやジグ・ジグ・スパトニックなどと共に『月面軟着陸』や『女性上位時代』のヒントになったことは間違いない。
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デ・ラ・ソウルの89年作『 3 Feet High and Rising』
マルコム・マクラレンの90年作『World Famous Supreme Team Show』
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