JAZZ IN OUTER SPACE
満点の星空にエレクトロニックでラヴなジャズを叩き込むアイロ。無限の未来を秘めた超新星をキャッチ!!
「彼は天才だよ」──盟友ジョン・ベルトランがそう絶賛するのは、アイロことジェレミー・アレキサンダー・エリス。ジャズ・キーボーディストとしてのキャリアを持つ29歳の新星だ。両親、兄弟がミュージシャンという家庭に生まれたジェレミーは、幼少時代からデトロイトの音楽史を呑み込んで育った。そして近年、彼はデトロイトのミュージック・シーンにおける重要作に必ずといっていいほど参加している。カール・クレイグのプロジェクトであるデトロイト・エクスペリメント、ジョン・アーノルドの新作、ベルトランの新作、アリル・ブリカの……。
「最初はラウンジ・トリオとして音楽活動をはじめて、そこでスティーヴィー・ワンダーやアース・ウインド&ファイア、マイルス・デイヴィスなどのファンクやジャズをカヴァーしていた。スティーヴィーの『Innervisions』とハービー・ハンコックの『Headhunters』は永遠のフェイヴァリット・アルバムさ。しばらくしてジャズヘッドというグループと共演することになってジョン・アーノルドと出会って、それをきっかけにアルトン・ミラーやマイク・クラーク、リクルースたちのレコードに参加した。トランスマットの〈Time:Space〉ツアーに参加してからは、実際に自分自身でもプロデュースを始めたよ。デトロイトみたいなタイトなコミュニティーのなかで日常的に演奏していると、ちょっとしたきっかけで共演することになったり、人を通じて知り合ったりということに自然となるね。ジョンや引っ越していく前のリクルースとは同じエリアに住んでいたし、同じスタジオでいつも演っているんだ」。
アイロ待望のファースト・アルバム『Electronic Love Funk』(Omoa)
デリック・メイが新世代のアーティストを紹介するべく企画した〈Time:Space〉ツアーの際には、ジョン・ベルトランが音楽性の違いから参加を辞退、その代打として抜擢されたのがジェレミーだった。デトロイトのミュージシャン・コミュニティーにおいて絶大な信頼を得ている彼にとって、かの街はどんな存在なのだろうか?
「ウィントン・マルサリスが〈アメリカのブラック・ミュージックこそが、まさにシンデレラ・ストーリーだ〉って言ったように、デトロイトは100年以上も前からずっと、人々の生活と音楽が密接に働きあって発展してきたところさ。人々の争いや人種差別によって街が破壊される一方で、それを反映した美しいアートが生まれてきた。この街は、まさに希望を必要としているのさ。アルバム『Electronic Love Funk』中の“The Hope That Springs From A World Of Pain”を聴いてもらえば、僕の言っている意味がわかるよ」。
さて、アイロとして彼が発信する音楽は最強のジャズ・ファンクだ。肉感的なブロークン・ビートの上で超絶テクニックのエレピが、ジャミロクワイもかくやなヴォーカルが跳ねまくる。そのサウンドはハービー・ハンコックやロニー・リストン・スミスが鍵盤上で描き出したような巨大な空間=〈Cosmic〉の存在を感じさせてくれる。
「僕はサンプラ-やドラム・マシーンをジャズという音楽に溶け込ませているんだ。そこから生まれるのは基本的に人々を踊らせるためのダンス・ミュージックなのさ。もし、その〈Cosmic〉という言葉が〈広大な銀河系宇宙〉や〈未来的〉なものを意味するのだとしたら、まさにそのとおり! それこそが僕の音楽のめざしているところだ」。
無限に広がるファンク宇宙のなかで、この新星はまだまだ輝きを増していくだろう。
▼アイロことジェレミー・エリスの参加作品