JOHN BELTRAN デトロイト色への揺り戻しから生まれた、総天然色のニュー・アルバム
「僕自身もかなりロマンティックだから、音楽もそういった要素をもっているんだと思う」。
〈マッド・マイク病〉をご存知だろうか? 別名・ロマンティック病。90年代にデトロイト・テクノの叙情感にヤラれたDJの手によって世界中に伝染し、UKのイアン・オブライエンやディーゴ、フランスのローラン・ガルニエなどに感染したビョーキ。この〈マッド・マイク病〉かどうかはともかく、みずからロマンティック宣言をしてくれたのは西海岸はユビキティきっての伊達男、ジョン・ベルトランだ。彼が作り出すラテン・サウンドはデトロイト・テクノ的叙情感で溢れているが、そもそもは……。
「90年に〈Wax Fruit〉という、いまはなくなってしまったデトロイトのドープなクラブでデリック・メイに会って、カセットテープを渡して彼にアプローチした。彼はとてもクールだったけど、返事はもらえなかった。その後、カール・クレイグがレトロアクティヴをスタートした頃、僕の曲“Aquatic”を電話越しにプレイしたんだけれど、彼は受話器越しで聴いただけなのに、そのトラックをリリースしたいと言ったんだ」。
デビュー後、R&S、ピースフロッグなど欧州のテクノ・レーベルからアルバムをリリースして順調に評価を得ていた彼であったが、98年にトランスマットよりインディオ名義でアルバムをリリースした後は、3年近くの寡黙な期間に入る。
「僕はいつでも変化を求めているんだ。『Indio』は結果的にテクノ・アルバムへの別れだった。僕は自分のサウンドに飽きてきていて、その頃はジャズ・フレイヴァーのものをたくさん回していた。だから制作もストップして、DJスキルの上達やレコード収集に時間を費やしていた。そして“Aztec Girl”(グッド・ルッキングのコンピ『Earth Vol.4』に収録、アイロを招いて制作された楽曲)によって新しい方向が開けたんだ」。
父親はプエルトリカン、母親はメキシカンという家庭環境に育ったベルトランは、新しいステージで自らのルーツであるラテン・サウンドを探求していく。才気煥発。ブラジリアン・テイストで溢れた前作『Sun Gypsy』は夏を彩るに相応しい大傑作(夕陽のジャケからもう涙!)となった。そして新作『In Full Color』は、コスモポリタンの友情とロマンティズムで溢れた集大成盤。デトロイトからはアイロとジョン・アーノルド、北欧からはアンドレア・サーグ、マイアミからはカンデラ・アーツ・クルーが参加した。
「今回チャレンジしたかったのは、自分のカルチャーに戻り、キューバン~プエルトリカンなリズムやムード、それ以上のものをコンポーズするということ。『In Full Color』っていうのは昔からのファンから新しいファンまでのために、僕のテクニック、感情、過去と未来……それらすべてを包括したアルバム・タイトルなんだ」。
デトロイトを通過した〈Sun Gypsy〉は、3月からマイアミに住むという。