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特集

RICKIE LEE JONES(2)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2004年01月29日 14:00

更新: 2004年01月29日 18:40

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/渡辺 亨

私は自由奔放で激しい女だった

 リッキーがふたたび表舞台に戻ってきたのは、89年のこと。この年、彼女は、スティーリー・ダンのウォルター・ベッカーのプロデュースによるアルバム『Flying Cowboys』をリリース。以後、『Pop Pop』(91年)、『Traffic From Paradise』(93年)、『Naked Songs』(95年)、『Ghostyhead』(97年)、『It's Like This』(2000年)、『Live At Red Rocks』(2001年)と、約2年に1枚のペースで、スタジオ録音盤(カヴァ-・アルバムも含む)もしくはライヴ盤をリリースしてきた。

  そして先頃リリースされた『The Evening Of My Best Day』は、約6年ぶりのオリジナル・アルバムにあたる。6年もオリジナル・アルバムをリリースしなかったのは、愛娘の養育が最優先事項だったからだという。そしてそのような生活を送る中で、だんだん創作意欲を刺激されることがなくなった、と。しかし、リッキーは、〈9.11〉以降のアメリカ社会の変容を目の当たりにして、ここで声を上げなくては、と思うようになったという。そう、『The Evening Of My Best Day』は、ブッシュ政権下のアメリカ合衆国で暮らすリッキーが一市民として、政治的なステイトメントを堂々と表明したアルバムなのだ。とりわけ1曲目の“Ugly Man”は、ブッシュ大統領に対する痛烈なメッセージである。リッキーがこんなにストレートな物言いをするとは……驚きを禁じ得ない。がしかし、『The Evening Of My Best Day』に収められているポリティカル・ソングは、決して一過性のメッセージ・ソングではなく、また、音楽そのものも普遍的な魅力を湛えている。ちなみに僕は、『The Evening Of My Best Day』を初めて聴いた時、70年代のカーティス・メイフィールドを思い出したが、リッキーはこの新作を制作するにあたって、ポール・マッカートニ-、キャット・スティーヴンス、カーティス・メイフィールドの音楽をもう一度学んだという。

〈若かった頃、私は自由奔放で、激しい女だった〉――『Flying Cowboys』には、このような一節が織り込まれた曲が2曲ある。それから14年を経たが、一人の人間としてのリッキーの本質はいささかも変わっていないように思える。リッキーはもう若くはないけれど、今も自由奔放で、思慮深く、繊細で、優しい。そしてある意味では、ジャンヌ・ダルクのように勇敢でラディカルである。だからリッキー・リ-・ジョーンズは美しい。おそらく今がいちばん。

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