MAJOR LEAGUE HIP HOP
ここ数年の流れ同様にローカル産アーティストたちの躍進が続いた2003年は、日本でもようやくNY産にこだわらないフラットな視座が確立されてきたように思う。そんななか、NYの切り札的な50セントの『Get Rich Or Die Tryin'』は、ポップ・ミュージック全体を通じての決定的な一枚となった。一方、どんどん革新されていくトラックの在り様に牽引され、求められるラッパーのスタイルも大きく変化。ゆえにいわゆる正統派のMCよりも、振れ幅を持った芸達者な南部勢のブレイクは当然といえる。その極みが、もはやラップすら放棄したアウトキャストだった。(出嶌)
MISSY ELLIOTT 『Under Construction』 Gold Mind/Elektra
殺伐としたビジネス戦争と化したヒップホップ・ゲームに、その本質を改めて問いかけた本作。オールド・スクール期の純粋な初期衝動と音楽が持つ楽しさをいまの時代に再生させ、一流のラップとパーティー・トラックで彩った、心躍る快作だ。(高橋)
NAS 『God's Son』 Ill Will/Columbia
不毛な争いの次元を軽く超越した、最高のリリシストによる最高の一枚。ラッパーとしての毅然たる意志を真っ直ぐに貫いた本作で聴けるマイク・スキルとリリックの前では、ビーフ話の無意味さに気付かされる。〈必聴〉とはこういう作品のためにあるべき言葉だ。(高橋)
SNOOP DOGG 『Paid Tha Cost To Be Da Boss』
Doggystyle/Priority/Capitol 師匠ドレーの不在も何のその、結果的に過去最大のヒット・シングルとなった“Beautiful”などを含み、スヌープの多面性を表現した2002年末の傑作。その余勢もあってか、2003年のスヌープは客演方面で出ずっぱりの大活躍でした。(出嶌)
BABY THE #1 STUNNA 『Birdman』 Cash Money/Universal
かつてのスターが大量離脱した影響もなんのその。キャッシュ・マネーの〈顔〉として、客演人気も高かったベイビーのソロ作品。最高のサウンド・クリエイター、マニー・フレッシュのトラックに乗せれば、その味とコクがさらに引き出されることを証明した好作品。(高橋)
50 CENT 『Get Rich Or Die Tryin'』 Shady/Aftermath/Interscope
作品の質やヒット規模、ギラギラと騒やかな存在感も全部引っくるめて、人気が大爆発した50セント。2003年の代表曲を全ジャンルから選ぶなら、ぶっちぎりで“In Da Club”しかないだろう。この傑作アルバムもいまだにロング・ヒット中!(出嶌)
LIL' KIM 『La Bella Mafia』 Queen Bee/Atlantic
タフでありながら美的訴求力も兼ね備え、マイク・スキルも抜かりなし。ラッパー以上に、ひとりの女性としても注目を集めているリル・キム、久々のアルバム。そんなプレッシャーも無関係にマイペースな作風は、その姿勢と同じく自然なヒットに繋がった。(高橋)
B.G. 『Livin' Legend』 Chopper City/In The Paint/Koch
保守化していく古巣キャッシュ・マネーを尻目に、ブッ飛ぶほどにミニマル化したバウンス・サウンドで大復活を果たした南部メジャーリーガーの先駆け、BG。メジャー・インディー・レーベルのさらなる台頭も2003年を特徴づける大きなポイントのひとつでした。(出嶌)
FABOLOUS 『Street Dreams』 Desert Storm/Elektra
ユルユルと脱力したラップは、ひと昔前なら好みが分かれたところだろう。ラップだけを聴かせるのではなく、トラックや構成における配慮によってさらにエンターテイメントとして引きつける作り。パッケージの総合力、という点で、その完成度は高かった。(高橋)
BORN CRUSHER 『Attenchun!』 So So Def/Arista
このボンクラを筆頭に、キラー・マイク、TI、ヤングブラッズら、恐らくは本国でも〈誰ソレ?〉的な扱いだったアトランタの新進たちがポップ・シーンをも蹂躙しまくった2003年。“Never Scared”は冷夏を想像もさせないほどの暑苦しさでフロアを満たした。(出嶌)
DAVID BANNER 『Mississippi : The Album』 SRC/Universal
湿地帯ミシシッピーからMの文字を大きく掲げ、ディープ・サウスの熱く粘りのあるトラックに、野生的なラップを絡めてヒットを記録。クルックド・レタズを経てソロになり、一気に南部を代表するラッパーに。話題になった契約金の高さもダテではなかった。(高橋)