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特集

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年12月04日 18:00

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/新谷 洋子

ふたたび変化したピンク

 そんな経緯を踏まえれば次も変化球が飛んでくることは十分に予測できたわけだが、ここに完成したサード・アルバム『Try This』は、その期待を裏切っていない。前作のヒットを受けてレーベルからも干渉されずクリエイティヴな制約が一切なくなり、「なんでも好きにできる状況にあった」と彼女。デイモン・エリオットがプロデュースした美しいソウル・バラードからレッド・ツェッペリンばりの重厚なロックンロールまで、複数のコラボレーターを起用して前作に劣らずヴァラエティー豊かなスタイルを擁するアルバムを完成させている。しかも作品の7割を占めるのは、まぎれもないパンク・ロック! そしてプロダクションと曲の共作で彼女をバックアップしているのは、なんとランシドのティム・アームストロングなのである。今年のはじめ、ピンクは自宅の一室を改築したスタジオで「とりあえず」リンダと新曲作りに着手したものの、インスピレーション不足を感じていたという。そんな時に現れたのがティムだった。

「そもそもこんなに早く新作を作るつもりはなかったのよ。前作があまりにもパーソナルな内容だったから、わたしはこの2年間、精神セラピーを受けていたも同然で疲れ切っていたわけ。けれどある日、以前から面識のあったティムが〈君と一緒に試したいアイデアがあるんだけど〉と声を掛けてくれたの。彼はこれまでに体験したことがないまったく新しいエネルギーを注ぎ込んでくれたから、わたしは一気にノっちゃって、ふたりで1週間に10曲も書き上げたわ。それから彼のツアーに同行して、バスの中でもレコーディングしたの」。

 冒頭で触れたように10代の頃はパンク・バンドで歌っていた彼女にしてみれば、ティムとのコラボレーションにはルーツを辿るような側面もあったとか。また、彼の定評ある幅広い音楽嗜好とピンクのゴスペル仕込みの喉が産み出した多彩な表現は、パンクを名乗る昨今のバンドの呆れるほどのワンパターンさに対するアンチテーゼとしても成立している。いや、16歳の時に家を飛び出し、単身でミュージシャンへの道を切り拓いてきたピンクの、業界のルールに縛られない活動姿勢も、まさに本来のパンク精神に則っているといえよう。

「確かに〈パンク〉って言葉は、最近は特に安易に使われすぎているから、少々抵抗を感じてしまうのよね。それにわたしの音楽の趣味からいって、アルバムを単一のスタイルでまとめることはあり得ないから、音楽的に自分を〈パンク〉と呼ぶことはできないわ。でも、メンタルな意味では間違いなく〈パンク〉よ。それは既存のシステムに抵抗することであり、わたしはずっとそんなふうに生きてきたから」。

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