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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年10月02日 21:00

ソース: 『bounce』 247号(2003/9/25)

文/村尾 泰郎

アルバム『Waiting For My Rocket To Come』のヒットも記憶に新しい、〈ポジティヴ・キッド〉ことジェイソン・ムラーズが登場だ!!


 リック・スプリングフィールドの顔がプリントされたピンクのTシャツを着て、そのヒュー・グラント似のシンガー・ソングライターはバナナを食べていた。「リックはもちろん好きだけど、ピンク色が好きなんだ」――はにかみながらそう説明すると、今度はマスカットの大きな粒に手を伸ばす。

 彼の名はジェイソン・ムラーズ、〈ポスト・ジョン・メイヤー〉の呼び声も高い話題のアーティストだ。彼が生まれ育ったのはヴァージニア州のメカニックスヴィルという街。本人いわく「だだっ広くて、みんな顔見知りで、良くも悪くも典型的なアメリカ」らしい。フェンスを作る仕事をしていた父親の横で遊んでいた少年は、やがてTVやラジオから流れてきたヒット・ソングに心を動かされ、衝動的に友達とコーラス・グループを結成。街角でボーイズIIメンや、カラー・ミー・バッドのナンバーを歌うようになる。

「13歳の頃かな。楽しいことは自分たちで探さないと何もない町だったんだ。まだ曲なんて書けなかったし、それに楽器よりも歌うことが好きだったからね」。

 やがて高校を卒業してNYへ(「もうここにはいたくない、世界が見たい!って思ったんだ」)。そこでソングライティングに目覚めたジェイソンは次に西をめざし、やがてサンディエゴへとたどり着く。路上演奏やコーヒーハウスでのライヴ活動がジェイソンをひとりのシンガー・ソングライターへと鍛え上げ、ついにメジャー契約。2002年末にリリースされたデビュー・アルバム『Waiting For My Rocket To Come』は、ローカル・チャート1位を皮切りにじわじわ全国区へ。そしてついには日本盤もリリースと、ワールドワイドな大ヒットとなったわけだ。それにしても、レゲエ/ヒップホップ/ブルーグラス……さまざまなフレイヴァーが気ままにトッピングされたこのデビュー作を聴けば、〈シンガー・ソングライター〉という言葉からは想像できない驚くほどポップな感触に驚かされるに違いない。

「このアルバムを作るまで、僕は同じライヴハウスでずっと演奏してた。だから毎回違ったことをやらなきゃって工夫してたことが影響してるのかもね。でも今回初めて大勢のスタッフとレコ-ディングすることになって戸惑うことも多かったよ。僕一人の判断で思うように物事を進められなかったり……。その反面、良いこともあった。いつも自分で考えすぎて、途中で曲作りを投げ出したりしてたんだけど、信頼するスタッフが〈いいね、その曲〉って後押ししてくれることで最後までやり通すことができたんだ」。

 そうやって苦難の末に生まれた曲のひとつが“The Remedy(I Won't Worry)”。ラップ・パートとサビのメロディーとの組み合わせが絶妙なシングル・カット曲だ。その中でジェイソンはこう歌っている〈The Remedy Is The Experience(経験こそが治療薬)〉。それは、まさに彼の人生という〈経験〉から生まれたフレーズらしい。

「友達にチャーリーって癌を患ってるヤツがいて、彼が言った言葉なんだ。癌を克服するには生き続けるしかない。病気といっしょに生きて経験することによって逞しくなっていくんだって。僕が歌を作る時、人との関係が僕をインスパイアするんだ。たとえばその人の着こなしがステキだな、とか、あるいはその人が僕のこと嫌いで、その嫌い方が印象的だったり、ただ誕生日がいっしょだったり……。その理由は人によって違うけど、その人が輝いているところや僕が気になるところを歌にする。ただ悲しみだけは理由にしたくないな。それよりもポジティヴな見方をしたい」。

 だからこそサビでは〈I Won't Worry My Life Away(思い悩む人生なんてゴメンだね)〉と歌い上げるジェイソン。この突き抜けたポジティヴさが、彼に真っ直ぐなパワーを与えてきたに違いない。〈音楽があなたに与えた最大のプレゼントは?〉という問いに「Traveling(旅)!」と答えた時の笑顔。そこにはまだ冷めぬ世界への憧れに満ちていた。彼に託された〈新世代のシンガー・ソングライター〉という肩書きは、彼にとってはギターに貼っておくステッカー程度のもの。ジェイソンは今日も世界を旅し続ける。新しい〈Remedy〉を求めて。新しい歌に出会うために。

「僕のアルバムを聴いたあとに、なにかを始めたいような気持ちになってくれると嬉しいな。〈何か絵を描きたい〉でもいいし、〈お祖母ちゃんに手紙を書こうと思ってたのに書いてなかったな、いま書こう〉みたいなことでもいいし。それができればいいなって」。

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