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特集

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年10月02日 21:00

ソース: 『bounce』 247号(2003/9/25)

文/穀田 大

イーグル・アイ・チェリーの新たなチャレンジ!? エレクトロニクスが新鮮な息吹を吹き込んだニュー・アルバム『Sub Rosa』を発表!!


 イーグル・アイ・チェリー──彼の歩みはいつだってマイペースだ。だからといって決して寄り道なんかはしない。自身が描いたイメージに向かって、確実かつスマートに歩を進める。ジャズ・トランペットの巨匠、故ドン・チェリーを父に持ち、義姉にはネナ・チェリーやティティヨがいる。だからといって、それが彼のサクセス・ストーリーと無縁のものであることは知ってのとおり。セカンド・アルバム『Living In The Present Future』にネナが参加しているものの、果たしてそのニュースが彼に勢いを与えたであろうか? いいや与えてはいない。すでにそのときの彼は、98年発表のデビュー・シングル“Save Tonight”の大ヒットで、トップ・アーティストの一人となっているし、デビュー・アルバム『Desireless』は400万枚のセールスを記録してグラミーにノミネートされていたのだから。これまでに発表された2枚のアルバムで、われわれは彼がソングライティングに長けた優れたシンガー・ソングライターであることを十分に理解することができた。そしてこのたび、およそ3年ぶりとなるサード・アルバム『Sub Rosa』と出会うことになる。

「2002年の初頭にツアーを終え、家に戻って、たくさんのことを整理することができた。ツアー中は落ち着かないから、多くのことを後回しにしてしまい、あとでやることになってしまう。僕は休みを取って、すべてをスッキリさせることが必要だったんだ」。

 周辺と自身の気持ちを整理しニュー・アルバムの制作にとりかかった彼は、ここで以前から抱いていた欲求を解放させている。

「僕はずっとテクノロジーやサンプリングに魅力を感じていて、いつかその方向でやってみたかったんだ。ラップトップでそれらを採り込んで、かなりの多くがレコードとなったよ。スタジオではそれらの音からスタートさせて、テクノロジーとライヴを組み合わせていったんだ」。

 彼の発言どおり、このアルバムはテクノロジーとライヴ演奏が見事なステップを踏んでいる。穏やかな空間を突如乱すエレクトロニック・サウンドはフレットずれを起こした弦の唸りのごとく聞こえ、つぎに待つのは一瞬の静寂。ここには生楽器といっしょに呼吸をしているテクノロジーがある。いくぶん角が取れふくよかになった彼のヴォーカリゼーションの変化も含め、そこには何らかの意図があったようだ。しかもそれは『Sub Rosa』というアルバム・タイトルが象徴しているとのこと。

「〈サブ・ローサ〉とは、何かが秘密に/ドアを閉めて/影に隠れて話されたときのこと。特にヘッドフォンで聴いてるときにそんな気分になるんだ……大抵そこには音楽と僕だけがいるんだよ」。

 テクノロジーを駆使して彼は、リスナー一人一人とのやりとりを楽しみたいらしいのだ。これまでにも存在した方法論ではあるが、ちょっと忘れられていたことだとも思う。いちシンガー・ソングライターが大勢の不特定多数の共感を得、代弁者となる姿だけがロックンロール・スターではない。なかには彼のような者だっていていいはずだ。ともかくパッケージ・ソフトという特性を有効に活用したアプローチではないか、と思う。

「たとえば、前の2枚のアルバムを誰と比較されたいか?と訊かれたら、〈ニール・ヤングかトム・ペティー〉と答えるだろう。でもこの『Sub Rosa』について訊かれたら、〈わからない〉と答えるだろうな。いまはソングライティングの技巧について、さらに理解できたと思うし、自分がやりたいこともわかっている。いまになってみると、最初の2枚はモノラルみたいだ。そしてこのアルバムはサラウンド・サウンド。エキサイティングな作品だと思わないかい?」。

 サウンド・クリエイトに力を注ぎ込んだニュー・アルバムではあるが、シンガー・ソングライターであるという自身のルーツは見失っていない。身の置きどころをわきまえている。

「『Sub Rosa』はおもしろいキャラクターが登場する物語を集めたアルバムなんだ。“The Strange”は、ある日NYのセントラルパークで座って人々を眺めていたときに書いた曲。“Skull Tattoo”は骸骨のタトゥーをしていた女の人からヒントをもらったんだ。シンガー・ソングライターにもいろんなタイプがあるけど、僕は〈シンガー・ソングライター=ストーリーテラー〉という考え方が好きだな。実際、アルバムの曲も自分自身のことから一歩踏み出して書いた曲ばかりだからね」。

 自分の存在に明確な答えがあり、リスナーへ伝えたいことがある。そして今作ではテクノロジーを修得し、表現の幅を広げた彼。その充実ぶりは、このニュー・アルバム『Sub Rosa』が証明してくれることだろう。最後にこのアルバムのテーマについて訊いてみた。

「マスター・プランはないんだ。でも僕のアルバムを通じて旅を続けることはできるはずさ。『Sub Rosa』にテーマがあるとしたら、〈僕らはどんな道を歩んで行くのだろう?〉という問いかけだ。いまは皮肉な世の中で、人々は説教をされたがっていないけど、問われるべきことはたくさんある」。

 イーグル・アイ・チェリーの歩みに寄り道はない。

▼イーグル・アイ・チェリーのアルバムを紹介。


98年作『Desireless』(Sony)


2001年作『Living In The Present Future』(Polydor)

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