John Mayer (Rock)(2)
ツアーで鍛えあげた強い精神
「もちろん成功の喜びはそれなりに噛みしめたよ(笑)。でも、以前より立派な部屋に住んでること以外に、身のまわりに成功の証は何もなかった。だから自分のヒット曲が耳に入ったりしない限りは、一切を忘れて、まるでデビュー前に戻ったかのような気分で新作に臨めたのさ。それにアルバムの仕上がりには心底満足してるんだ。だからこそパッケージを飾る必要性を感じなくて、ジャケに写っているのは僕とギターだけ。表ではシラを切っておいて、中身で驚かせようっていうわけさ(笑)」。
確かに驚きに満ちた作品ではある。なにしろこれは単なるファースト・アルバムの続編ではなく、ある意味で対照的なアルバムなのだ。というのも、ファーストの特徴はアコースティックなグルーヴに乗せて軽快に展開するメロディーや、細やかな状況描写に満ちたストーリーテリングにあったものの、今回はよりエレクトリックでテンポは全体的に緩やか。詞もアブストラクトな表現に傾き、音にも言葉にもたっぷりスペースを含ませている。
「そういうアルバムを作りたい気分にさせたのは、何よりもツアーの経験なんだよ。約2年間ツアーを続けてみて、いつまでもプレイしていて楽しい曲はどれなのか、なぜ楽しいのか、理解できるようになったのさ。で、それはスペースの有無に関係していたんだ。僕が呼吸できる曲、いろんな解釈が可能な曲、僕らしく振舞える曲……。そういった曲こそ何度プレイしても飽きなかった。だから今回はそのことを念頭に置いてアルバムを作ったんだよ。つまり、ステージでソングライティングを学んだようなものだね。前作の曲にはあまりアレンジの余地がなかったけど、今度はヴァージョン・アップの可能性がたくさんあるんじゃないかな……それに、僕のコンサートには可愛い女の子が大勢来るから、客席をボーっと眺めてられるだけの余裕が欲しかったんだよね(笑)」。
なるほど、実際このインタヴューを終えてから客層をチェックしてみると、大半は若い女性。アメリカにおいてジョンは、問答無用のアイドルなのである。ヘヴィー・ロックのマッチョ趣味に辟易しつつもインシンクじゃ物足りないという女性たちにとって、(ルックスもさることながら)ロマンティックで機知に富んだ彼の誠実な語り口は抗し難い魅力を放っているのだろうし、女優のジェニファー・ラヴ・ヒューイットとの交際が芸能誌を騒がせたりしたことも、ジョンのセレブ度アップに貢献したはずだ。そのぶん、男性ロック・ファンの目には少々軟弱に映るのかもしれないが、『Heavier Things』ではサウンドメイカー/ギタリストとしての豊かな表現力を本格的に発揮しており、彼のイメージは少なからず変わるに違いない。中退したとはいえバークリーで学んだジョンは、スティーヴィー・レイ・ヴォーンやチャーリー・ハンターを敬愛し、ブルースやジャズへの造詣も深い音楽オタクなのだから。また、ルーツのクエストラヴやトランペット奏者のロイ・ハーグローヴといったゲストの選択も、彼の知られざる雑食的志向を物語っている。
▼ジョン・メイヤーの作品を紹介。
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