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特集

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年10月02日 21:00

ソース: 『bounce』 247号(2003/9/25)

文/桑原 シロー

80's
対極に位置したシーンのムード
 皆こぞって斬新で奇抜でダイナミックなサウンド探しに奔走した80年代の音楽界。そんな状況にあって、シンガー・ソングライターの存在は実に地味だった。 さらにMTVの台頭。勝利者=ヴィジュアルのインパクト・アピールに長けた者たち。見栄えのいい連中がもてはやされた時代に、いつも裸に近い、楽器ひとつ抱えただけの男らは、アピール度の弱さから隅っこに追いやられていく。代表的な顔を見つけにくいこの時期だが見方を変えてみると、バンドという形のなかに、例えばトーキングへッズのデヴィッド・バーンのようなシンガー・ソングライターを発見できる。顔といえば、プリンス。〈独り〉の自分を記録しようと試みたあの2枚組アルバムを聴けば、彼のシンガー・ソングライター的側面がはっきりと窺える。また80年代中盤はカレッジ・チャートが全世界の音楽シーンに影響を与えはじめた時期。その界隈から出てきたティムバック3はチープなサウンドを用い、あえて裸っぷりをアピール、主流に抗ってみせた。反抗姿勢としてはブルース・スプリングスティーンの『Nebraska』が印象深い。大作『The River』のあとにこんな素っ裸な作品を発表しちゃうボスって人は、ときどき脱がなきゃしょうがなくなる性分なのだ。さらに、〈ネオアコ〉と呼ばれるスタイルも出現しているが、彼らもシンガー・ソングライター的文脈で語るべき人々。後半になると女性シンガー・ソングライタ-がクローズアップされはじめ、〈アコースティックが、いま新しい!〉的風潮がシーンに漂うことになる。

▼文中に登場するアーティストの代表作を一部紹介。

90's
〈歌〉が鋭利さを増した時代
 過去も未来も入り乱れ、さまざまなカテゴリーがひしめき合った90年代。〈音響〉〈宅録〉〈70年代リヴァイヴァル〉などのキーワードと共に多くのシンガー・ソングライターが登場する。これまでキッチンやベッドルームの片隅で、ひっそりと自己表現に没頭していた人間たちが、〈俺、実は曲を作ってるんだけど……〉的な慎ましさをもって、われわれの前に現れた。ロン・セクススミスのデビュー作は、先に挙げたキーワードがすべて収められている点で象徴的なアルバムだろう。屈折具合や遊び心がとかく注目されがちだったベックも、いまとなっては現代のシンガー・ソングライター代表選手のポジションを確固たるものとしている。彼の場合、裸になってもボディー・ペインティングが施してあったりするので、こっちも笑いながら眺めることがしばしば。が、知らず知らずのうちに歌が心を刺していて、なかなか傷が完治しない。90年代的な痛みの形、〈刺す〉ということであれば、あまりに鋭利だったのがジェフ・バックリーの歌。90年代を代表するシンガー・ソングライターとは言い難いが、もっとも深い叫びを響かせたシンガーとして記憶されている。

▼文中に登場するアーティストの代表作を一部紹介。

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