TALK SESSION
ライターとして活躍中の新谷洋子氏と当編集部・村尾泰郎が語る、現代におけるシンガー・ソングライターを取り巻く状況。シーンに吹く追い風は、果たして本物か?
2大シンガー・ソングライター?
村尾「ここ最近、ジョン・メイヤーやジェイソン・ムラーズといった若手シンガー・ソングライターたちが話題になっています。実際、新谷さんはジョンに会ってインタヴューをしてきたわけですが、どんな印象をお持ちになりましたか?」
新谷「すっごく普通ですね。陽気で気さくな、隣にいそうな男の子」
村尾「ポップスターとしての印象は?」
新谷「ポップスターなんですけど、ポップ・アイドル的なスターたちとは違いますね。変に作り込まれたものじゃなくて、もっと普段着な感じ。だから新鮮……みたいな(笑)」
村尾「〈ヘヴィー・ロックやパンクのマッチョさに辟易していた女の子が、ジョン・メイヤーを聴くようになった〉とジョン・メイヤーの項では述べられていますが……」
新谷「ヘヴィー・ロックやパンク系って、音はカッコイイんですけど、歌詞となると女性には優しいものではないですね。女性にとってはキツイか、失礼か(笑)。もちろん一概には言えませんが……。私が思ういまの2大若手シンガー・ソングライターは、ジョンとダッシュボード・コンフェッショナルなんですが、どちらも女性ファンをガッチリ掴んでいて、詞も繊細で見かけも優しいんです。ダッシュボードの詞はとても赤裸々で、生々しいくらいのハートブレイクを歌う。ジョンはもう少し軽いタッチで、もっとウィットとかユーモアが混じってる」
村尾「ジェイソン・ムラーズも、明るくてユーモラスな歌詞ですね。それにびっくりするくらいポジティヴ。ジョンもダッシュボードもみんなそうですよね。それにサウンド・プロダクションにも気を配っていてエンターテイメントを心掛けていたりして、〈ポップさ〉っていうのは彼らのサウンドのキーワードになりますよね。そういえばジェイソンって、高校の時、チアリーダーをやってたそうなんですよ。でも、出身が田舎ってこともあって、まわりからバカにされたことも多かったらしいんです。だから、彼に言わせると、アメリカみたいな国で、内気な男の子が〈クール〉に思われるには歌を歌うしかなかったって……ジョンのほうはどうなんでしょうか?」
新谷「ジョンの場合はヒットした“Your Body Is A Wonderland”が大きかったでしょうね。愛する女の子をベタベタにホメた歌。あれが新鮮に受け止められた。ただ、ジョン自身もそういう女々しいカラー(笑)に縛られないように、ニュー・アルバムではハートブレイクな歌を歌ったりしていろいろ挑戦してますけど。でも“Your Body Is A Wonderland”みたいなことを歌えるっていうのは大きかったと思いますよ。やっぱりライヴでは女の子がみんな歌ってますからね」
村尾「まさにダッシュボードと同じ盛り上がり方ですね。両者の女性ファンの雰囲気って違ったりするんですか?」
新谷「……そうですね、ジョンのほうはとっても健康的な感じの娘、ダッシュボードはタトゥーを入れてちょっとナイーヴな女の子って感じかな? あくまで傾向的な話ですが……」
村尾「女の子からの支持を集めているということは、ルックスも重要なんですか? でも、着てるものはテキトーですよね?」
新谷「(笑)ジョンもそれは自覚してるみたいですよ。ライヴDVD『Any Given Thursday』の副音声でも、〈あの顔見ろよ!〉とか〈この服、長いツアーで臭くなってるんだよね〉とか喋ってますから(笑)。カッコはほんと気にしてないようです」
村尾「では彼のどんな部分が?」
新谷「ジョンの場合、あの顔であの歌を歌ってるっていうのが大きいと思いますね。あれ以上ハンサムでもダメだったと思うし、以下でもダメ。その絶妙なバランスが、歌の良さとの相乗効果で大ヒットに繋がったんじゃないでしょうか。ブラピ並の顔の良さだったら、逆にマイナスだったかも(笑)」
村尾「でもライヴとかを観ていると、観客のノリとしてあきらかにアイドル扱いされていますよね。アーティスト本人としては、そういった反応に対してどう思ってるんでしょうか?」
新谷「ジョンは楽しんでるみたいですよ。アーティストとしての自信を持ってるからってのもあると思うんですが。ジェイソンもそんなにイヤがってはいないんじゃないですか?」
村尾「そうですね。とても謙虚にファンや人気を受け止めてますね。そのヘンはほんとにアイドル並の謙虚さで(笑)。そういえば、最近活躍しているシンガー・ソングライターで新谷さんの好みって誰ですか?」
新谷「あー、私はピート・ヨーン(DISC GUIDE参照)かな。顔はかなりいいんですね(照)」
村尾「僕はレット・ミラー(DISC GUIDE参照)ですね(照)。でも、アメリカではこんなふうにヴィジュアルで持ち上げられたりしてるんですか?」
新谷「ピートの場合はハリウッド女優といろいろ噂もあったりして、それでイケメン的な盛り上がりはありましたね。ジョンも日本では考えられないくらい、そういう捉えられ方をされてます。ティーン向けのアイドル誌ではジャスティン・ティンバーレイクやハリウッド・スターなんかといっしょに登場してますから。シンガー・ソングライター・シーンのなかではもうダントツ」
村尾「そういう存在って、日本でいったら誰なんですかね」
新谷「誰なんでしょうね(笑)。でもジョンって、若い女性だけじゃなくて、先輩や業界からもすごくウケがいいんですよね。悪い話は聞かない」
村尾「優等生ですね、憎たらしいくらいに(笑)」