Steve Winwood
普段から音楽に親しんでいる人ならば、自分が最初にのめりこんだ時期の音楽というものに、多かれ少なかれ、思い入れみたいなものを持っているのではないだろうか。音楽に限ったことじゃないが、何かに出会った時の最初の体験というのは、その人その人に少なからず影響を与えていくものだ。
80年代のポップ・ミュージックを聴いて育った僕は、そんなわけで、〈ブルーアイド・ソウル〉と呼ばれる音楽にいまでも強い反応を示してしまう。というのも、80年代には、黒人音楽のエッセンスを独自に消化したポップ系のアーティストが、さまざまな形で大きな成果を挙げていたから。ビリー・ジョエルやホール&オーツのような米国勢はもとより、とくにそういう動きは英国のポップ界に顕著だった。スタイル・カウンシル、スクリッティ・ポリッティ、ワーキング・ウィーク、エルヴィス・コステロ、ジョー・ジャクソン、スティング、ピーター・ガブリエルなどなど。メジャー・レーベルのアーティストも、インディーズのアーティストも、新人もキャリア組も……まさに時代の大きな潮流を作るかのように、それぞれの形でソウルフルな表現に磨きをかけていったのだ。
そんななかでも、スティーヴ・ウィンウッドが86年にリリースした『Back In The High Life』は、ちょっと忘れられないアルバムになっている。全米3位、全英8位の大ヒットになった本作は、ウィンウッドにとって4作目にあたるソロ・アルバム。シングル・カットされ全米1位になった“Higher Love”を筆頭に、ウィンウッドのキャリアのなかでも最高にキャッチーな楽曲が揃ったアルバムだ。
それまでのウィンウッドのソロ・アルバムは、彼がひとりで多重録音を手掛けたものが多く、それはそれで味わいの深い内容になっているのだが、『Back In The High Life』がウィンウッドにとって特別なアルバムになっていると思えるのは、そこに集った参加ミュージシャンの豪華な顔ぶれと無関係ではない。シックのナイル・ロジャース、システムのデヴィッド・フランク、チャカ・カーン、ランディ・ブレッカー、ジョー・ウォルシュ、ジェイムズ・テイラーなどなど。本作にはこうした米国の名高いミュージシャンがこぞって参加し、レコーディング時のスタジオのテンションの高さがそのままパックされたような内容になっている。ソウルフルな曲から、英国のフォークやトラッドを消化した曲まで。ウィンウッドのアルバムは、下手をすると冗長なセッション集になってしまうきらいもなくはないのだが、ここでは参加メンバーの演奏が互いに曲を引き締め合い、ビシッと筋の通ったポップ・アルバムになっているのが実に気持ちいい。もし、いまからスティーヴ・ウィンウッドを聴いてみようという人がいたら、僕は迷わずこのアルバムを最初に薦めるだろう。シンガーとして、またソングライターとして、スティーヴ・ウィンウッドという唯一無二の個性が堪能できるアルバムになっているのだ。
その『Back In The High Life』を手初めに、僕もそれ以前のウィンウッドの作品を聴き進めるようになった。
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