そして2003年、進化したMONDO GROSSOが放つ新作『NEXT WAVE』とは……?
HERE COMES NEXT WAVE!!
MONDO GROSSO、いい名前だ。イタリア語で〈大きな世界〉という意味を持つ大沢伸一によるこのソロ・プロジェクトのキャリアは、音楽という大海原への挑戦の歴史だ。アルバムをリリースするたびに、その挑戦によって〈世界はもっと広いんだ〉ということを気付かせてくれる。そして2003年、辿り着いたのがニュー・アルバム『NEXT WAVE』。NEWではなくてNEXT──ちょっと仰々しく始めたが、「自分がホントにその時にやりたいことをやっただけですよ」と本人はサラリと言う。
実に3年ぶり5枚目となるオリジナル・アルバム『NEXT WAVE』は、大沢自身の音楽ルーツの集大成的な内容だった前作『MG4』とは一転して、現在進行形のダンス・ミュージックのモードを反映した作品である。「僕のなかで最大限にポップなものを出したかった」と言うように、今回もフィーチャリングされたアーティストとの相乗効果によって楽曲ごとのキャラクターが際立ったものばかり。先行シングルとなったBoAをフィーチャーした“Everythig Needs Love”、またタイプはガラッと違うがDragon Ashのkj(降谷建志)をフィーチャーした“SHININ'”は言うまでもないだろう。
「(制作の進め方は)ホントに参加してもらった人それぞれですね。イメージがあって、メロディーも歌詞も書いたものを歌ってもらっているものや、声を素材として録って、こっちで組み立てていったものも。ほとんどの曲が最初のイメージからはどんどん変わってますけどね。4回くらいトラックを替えたものもありますよ」。
例えば、アルバム幕開けの曲である、ベースメント・ジャックスの大ヒット曲“Red Alert”のフィーチャリング・ヴォーカリストとしても知られる女性シンガー、ブルーによる伸びやかな歌声とギターが走る“BLAZE IT UP”から、ローリー・ファイン(COLDFEET)のヴォーカルが飛び交うマッドな2曲目“MOTORMOUTH”、ギタリスト&ヴォイス・パフォーマーとして注目されるsaigenjiのスキャットをエディットし、新たなメロディーが形成されていく“WAITIN' FOR T”への流れ。この3曲を聴いただけでも大沢伸一によってユニークな作り込みが施されていることに気が付くだろう。
またアルバム中盤には、目が覚めるようなエッジが効いたトラックが待っている。「彼女にはこの曲しかないでしょ!?」というのは、当代きってのパワフル女性シンガー、ケリスをフィーチャーした“FIGHT FOR YOUR RIGHT”。そう、ビースティー・ボーイズのカヴァーだ。続く“DANCEFLOOR COMBAT”は、大沢伸一が「ハウス・シーンのヒーローのひとり」とまで言うトップ・アーティスト、アーマンド・ヴァン・ヘルデンのラップをフィーチャーした激ブツ。「(アーマンドは)ニューヨークで会った時に〈スタジオに遊びに来てよ〉って話をしたらホントに来てくれて! しかも、ラップしてよって言ったら、ふたつ返事でイイよって」ことになったというウソのようなホントの話。
このエピソードからもわかるとおり、今作はその緻密な作りとは対照的に「〈考えないことがコンセプト〉っていうか、〈コンセプトを持たないことがコンセプト〉」だったという。発想の瞬発力とノリは大事だってこと。
「自分が頭のなかで考えたことを100%実現することって難しいし、仮に実現したとしてもそれがおもしろいかどうかは別だと思うんです。まあ、波乱に満ちてるほうが作っていても楽しいんですよ」。
アルバム終盤にかけては、中盤とはまた違った勢いで聴かせてくれる。このアルバムのタイトルともなっている“NEXT WAVE”はテイ・トウワが共同プロデューサーとして参加、そしてヨーロッパでも高い人気を誇るNYのレーベル、サブリミナルの主要アーティストであるハリー・ロメロとの共作曲“TORNADO”は現地のスタジオで「3日間で1曲仕上げようって言って、ホントにできちゃった」そう。そして、Kjをフィーチャーしたシングル曲“SHININ'”はここで登場して畳み掛ける。アルバムを締めくくるのは7年ぶりのコラボレーションとなったUAの、今作で唯一日本語の歌詞である“花”。と、この70分間に及ぶ全14曲(インタールードを含む)はトラック集でありながら、アーティスト・アルバムとしての体裁も持ちえている。
さて、MONDO GROSSOがデビュー・アルバムを発表して、今年はちょうど10年目にあたる。
「ホント、あっという間ですよ。好きなことをやってきたから早く感じたのかな」。
アーティストが10年間、新鮮さを保つのはとても難しい。自分にも、そしてリスナーにも新鮮であるために、MONDO GROSSOはいつもフレッシュな地点まで行って、それを自分のものにしながら活動を続けてきた。
「過去の僕がやったことを評価してくれるのはうれしいけど、いまそれと同じことを僕は出せないし。僕もみんなと同じように毎日変化するし、好きなものも変わっていく」。
どおりで『NEXT WAVE』なわけだ。大沢伸一はまた次への一歩を踏み出した。
▼『NEXT WAVE』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
COLDFEETの2000年作『LUCID DREAM』(ソニー)
アーマンド・ヴァン・ヘルデンの2001年作『Ghandi Khan』(FFRR/London)