somewhere in Detroit(2)
DREXCIYA
アンダーグラウンド・レジスタンス(UR)一家のなかでもっとも謎のユニットだったのがドレクシアだった。2人組ということ以外は謎に包まれているドレクシアは、91年にEP『Deep Sea Dweller』で浮上して以来、UR関連のレーベルだけでなくリフレックスやワープからも作品をリリース。水中をコンセプトとしたサイケデリックにうねりまくるシンセ音とハードなビートの深海ハード・テクノ~エレクトロは、デトロイトのダークサイドを象徴するものだった。しかし後にドップラーエフェクトなどで活動するジェラルド・ドナルドが離脱し、ジェイムス・スティントンの個人ユニットとなる。その結果、トレゾーからリリースした2枚のアルバムはよりストレートなデトロイト・エレクトロへ変化。だがドレクシアの暗黒面が封印されたわけではなく、リフレックスからのトランスリュージョン名義でのアルバム『L.I.F.E.』は究極の暗黒エレクトロだった。しかし皮肉なことに、そのリリース直前にスティントンは病死。ドレクシアは深海深く沈んでいった。だがドレクシアの大ファンであるリチャードD・ジェイムスが旧メンバーのドナルドに呼び掛けてドレクシアを復活させようと画策しているとの噂がある。(石田)
DREXCIYA 『Harnessed The Storm』 Tresor(2002)
デトロイト勢との繋がりも深いドイツのトレゾーだが、故ドレクシアによる今作もここからのリリース。彼のお家芸ともいうべき奥深い深海から響くかのようなディープ・エレクトロが強烈に黒く、そして青い。迷路のような音世界にクラクラ!!(大石)
KEM
生まれはナッシュヴィルだが、デトロイトで育ち、現在も同地を拠点に活動中のケム。5歳からピアノを弾いていたという自作自演シンガーで、モータウンから『Kemistry』でデビューした。いや、正確には、2001年に自主制作盤としてリリースされた作品をモータウンが買い取って再発したものである。その深遠な音世界はどこかステュアート・マシューマン(シャーデー)にも通じるものがあり、アルバムではケム自身が弾くキーボードをメインにネオ・クラシカルなジャジー・ソウル曲が展開されるといった具合。
けれど、ここにはデトロイトという無機質(に思える)な大都市が持つ寂しさや哀愁がそこはかとなく漂っていて、張り詰めたような緊張感がある。ジャズを基盤にジワジワと聴き手の感情を高ぶらせていくような音作りはアニタ・ベイカーなどを手掛けた同郷のマイケルJ・パウエルのマナーにも通じる部分があり、そういう意味でケムは〈ネオ・クワイエット・ストーム〉の仕掛け人と言えるかも!?
なお、最近のモータウン作品には、レーベル・ロゴに現在の本拠地である〈NYC〉と元祖本拠地である〈Detroit〉の両方が刻まれているが、今後、ケムをキッカケに〈デトロイトのモータウン〉が復興したら、それはそれでおもしろいことになるだろうな。(林)
KEM 『Kemistry』 Motown(2003)
どこの街からでもこのタイプのオーガニック・サウンドは生まれてきそう……なのですが、ケムがわざわざデトロイトに移ってきてすべてを作り上げたってことは、もしかしてデトロイトのインディー・ソウル自体が盛り上がってきてんの?とか妄想したり。しっかしイイ歌です。(轟)
ANITA 『BAKER Rapture』 Elektra(1986)
デトロイト育ちのアニタが同郷の盟友マイケルJ・パウエルを後ろ盾に作り上げた80年代ソウル至高の名盤。録音は西海岸だが、クールかつ重厚なサウンドや汗臭さの滲むヴォーカルはデトロイトのコンクリート・ジャングルに渦巻く熱風の如し。(林)
AMP FIDDLER
トリニダード移民の子としてデトロイトに生まれたジョセフ“アンプ”フィドラーもまた、デトロイトの今後を握る存在だと言っていい。カリプソやレゲエはもちろん、クラシック音楽を学びながらモータウン・ポップスに親しみ、オークランド大学で音楽理論を学んだというから、相当なポテンシャルを備えた人だ。ジョージ・クリントンの86年作『R&B Skeltons In The Closet』からPファンク一派に加わり、クリントンの右腕として脚光を浴びる。その後はインコーポレイテッド・サング・バンドに参加、89年に弟のバブズ・フィドラーとMrフィドラーを結成し、90年にデビュー。その後はセッション・シンガー/キーボーディストとして、ドラマティックスやプロマティックなどの地元作品はもちろん、プライマル・スクリーム、シール、マクスウェル……と八面六臂の大活躍を見せている。2002年には突如として12インチ・シングル“Basementality”をリリース、ムーディーマンさえ思わせるマシーン・ソウルの使い手に変貌を遂げていた。カール・クレイグのデトロイト・エクスペリメントでも中核を担うなど、今後の飛躍ぶりに絶大な期待がかかる。(出嶌)
MR. FIDDLER 『With Respect』 Elektra(1990)
フィドラー兄弟が残した唯一のアルバム。ニュー・ジャック・スウィング台頭期に生身のスウィングで対抗したジャジーな逸品で幕を開け、エレクトリックとアコースティックを巧みに混在させる手捌きからは、彼がPファンクで果たした役割がよくわかる。(出嶌)
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