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特集

デトロイト音楽の形成に寄与した偉人たち(2)

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年05月15日 14:00

更新: 2003年05月20日 17:28

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

DON WAS
 近年はローリング・ストーンズやエルトン・ジョン、ブライアン・ウィルソンも手掛ける説明不要のトップ・プロデューサー。ただ、52年にデトロイト生まれ……ということは10代にしてモータウン、MC5、Pファンクなどデトロイト音楽の旨味を吸いまくって育ったことになるわけで、持ち前の類い稀なポップ・センスはそこを根幹にしていると言えるだろう。友人デヴィッド・ウォズらと組んだウォズ(ノット・ウォズ)として81年にデビュー、B-52'sらのヒットに貢献して制作活動を軌道に乗せた。生み出すサウンドはさまざまで、手掛けるアーティストも大御所から新進まで多岐に渡るが、そんななかにもイギー・ポップの『Brick By Brick』やボブ・シーガーの『The Fire Inside』など、かつてみずからが憧れたのであろうデトロイト・ヒーローを手掛けたものが散見できて微笑ましい。最近はガレージ・バンド、ヴューのEP『Babies Are For Petting』をプロデュース。(出嶌)


ウォズ(・ノット・ウォズ)の90年作『What Up Dog?』(Fontana)

JUAN ATKINS
 デトロイト三銃士であるデリック・メイ、ケヴィン・サンダーソンにテクノを伝授し、自分たちの音楽を〈デトロイト・テクノ〉と呼んだ……という事実だけでも、ホアン・アトキンスをデトロイト・テクノ最重要人物と呼んでいいと思うけれど、エレクトロ・ユニットであるサイボトロンとして前出3人のなかでいち早く音源をリリースし(最初のシングルは81年!)、もっとも早く自身のレーベル(メトロプレックス)を設立し、モデル500名義で“No UFO's”や“Ocean To Ocean”といったデトロイト・クラシックを、そしてベーシック・チャンネルを立ち上げる前のモーリッツォ(3MB)と合体してテクノにジャズの要素を導いた“Jazz Is The Teacher”(核心を突いたタイトル!)を生み出し、去年にはモデル600名義(微妙な変化だ)で新たなデトロイト・アンセム“Update”まで生み……と、20年以上に渡ってデトロイト・テクノ・シーンを現役でリードしているのだ。ミスター・デトロイト・テクノの称号は彼にこそふさわしい。(石田)


モデル500などの音源を収めたミックスCD『Wax Trax! Master Mix Volume 1』(Wax Trax/TVT)

KEVIN SAUNDERSON
 ホワン・アトキンス、デリック・メイと共にデトロイト・テクノの黎明期から活動していたオリジネーターのひとり。この3人をまとめて〈第一世代〉とか言われていますが、ケヴィンはいち早くメジャー・フィールドで評価を受けていた人。彼とパリス・グレイによるハウス・ユニット、インナー・シティが80年代後半~90年代初頭に残した“Big Fun”“Good Life”“Halleluja”といったヒット曲は、クラブ・シーンにおけるデトロイトの認知度を確実に上げた。インナー・シティは女性ヴォーカルを擁するソウルフルでポップなハウス・ユニットではあったが、ケヴィンはリーズやE・ダンサーなどの名義も使い分け、これらのユニットでも数々のクラシックスを放っている。なかでも、リーズの“Rock To The Beat”やE・ダンサーの“Pump The Move”は絶対マスト。デトロイト勢のなかでは珍しくいろいろなタイプのサウンドをこなす人だけど、器用貧乏になってはいない。もう一花咲かせてほしいね。(池田)


ケヴィンがさまざまな名義で残した楽曲を集大成したコンピ『Face & Phases』(Planet E)

DERRICK MAY
デトロイト・テクノ最高のロマンティスト。デトロイト・ビルヴィレ3人衆のなかでももっとも原始的で感性剥き出しのトラックは、完全なフォロワーを生み出さなかったほど強烈であり、いま聴いても十分目を覚まさせられる。デビューはシンセサイザーのピッチ・ベンドによる展開の作り方が石野卓球のドギモをも抜いた“Nudo Photo”。そして次にリリースされたシングルこそが「高い崖っぷちからダイヴしたような、そんな気持ちにさせてくれる」とデリック本人も語った曲“Strings Of Life”である。この曲は当時UKを中心にヨーロッパで広まっていたレイヴ・カルチャーに迎え入れられ、デトロイト・テクノが現在の地位を築く礎のひとつとなったほどのアンセムだ。その後90年代に入ってからはシステム7との共演や、数々の傑作リミックス・ワークはこなすも、オリジナル作品は発表せず。あんたのDJは真のダンス・ミュージックだけど、もう一度ストリングスで泣かせて。(鈴木)


主宰するトランスマットのレーベル・コンピ『Time : Space』(Transmat)

UNDERGROUND RESISTANCE
 第一世代(ホアン・アトキンス、デリック・メイ、ケヴィン・サンダーソン)がスタートさせたデトロイト・テクノを大きく発展させ、テクノ・ファンに〈デトロイト=神聖なる場所〉というイメージを与えたのがアンダーグラウンド・レジスタンス(以下UR)だ。マッド・マイクがジェフ・ミルズ、ロバート・フッドと共にURを結成し、同名のレーベルを立ち上げたのが90年。それまでのデトロイトにはなかった強烈にハードコアな作風がまずヨーロッパで火が点いた。“Final Frontier”や“Riot”“Acid Rain”といった実験的でノイジーな楽曲は、闇雲に怒りをぶつけるかのような衝撃的なダンス・ミュージック。対して、“Nation 2 Nation”“World 2 World”“Galaxy 2 Galaxy”といったテクノ史上不朽の大名盤として名高い12インチ・シングルで聴くことができるのは、非常にドラマティックな展開を持ったもの。この柔と剛が表裏一体となったURのサウンドは熱心なファンを獲得することになり、加えてシリアスで政治的なそのメッセージが彼らのカリスマ性を高めていった。ジェフ・ミルズとロバート・フッドはその後脱退してしまうものの、その後はマッド・マイクの個人プロジェクトとして現在でも精力的に活動している。また、UR一派とされるドレクシアやDJロランドの活躍も見逃すことはできない。彼ら周辺のコミュニティーからは次にどんな強者が現れるかがわからないので要注意。マッド・マイク自身の求心力も衰えていないようだし、彼のタフなヴァイタリティーをもってすれば今後も大きな波を起こしてくれるハズである。(池田)


アンダーグラウンド・レジスタンス『Interstellar Fugitives』(UR/Submerge)

JEFF MILLS
 レコードを数十秒~1、2分で次々とミックスしていく人間技とは思えぬ凄まじいDJプレイ、そして〈Waveform Transmission〉シリーズからパーパス・メイカーへと続いたDJ使用を目的とするパーツとしての楽曲制作……といった点において、現在ハード・ミニマルと呼ばれるすべての音楽/アーティストはジェフ・ミルズのフォロワーである。ただ、忘れちゃいけないのは、ジェフがマッド・マイク、ロバート・フッドと共にURのオリジナル・メンバーだったことだ。ミニマルという方法論を遂行するためにURを離脱したジェフだったが、近年はミルザート名義による『Every Dog Has Its Day』、ジェフ名義での『Time Machine』『At First Sight』で、自身のルーツを確認&深化させるかのように非ハード・ミニマルでデトロイティッシュな作品を量産している。最新作の『Medium』においてその作風は、大河デトロイト・テクノといった域にまで達している。(石田)

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