音楽をやるのは自然なこと
25歳になった現在も故郷を離れることなく、伝統と革新が渦巻く街に暮らすドゥウェレ。彼の音楽性を育んだのは、まず両親だった。スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイ、ロイ・エアーズを好んでいた両親、なかでも幼いドゥウェレにオルガンを教えた父親の影響は大きかったそうだ。が、そんな父はドゥウェレが10歳の時に自宅前で銃殺されてしまう。
「音楽にもっと深くのめりこんでいくことで、父の死を忘れようとしたのかも知れない。それから自分で曲を書いたりしはじめたからね。俺にとっては恐らく逃げ道だったんだよ。でも、そうやって彼の死を乗り越えることができたんだ」。
その言葉どおり、彼は音楽に没入していく。ピアノとトランペットのレッスンを始め、学校ではマーチング・バンドとジャズ・バンドで活躍。また、白人の生徒が中心の学校に進学した経験も、彼にとっては大きかったという。
「俺自身にとっては普通でも、(黒人が白人ばかりの学校に通うのは)当時はやっぱり珍しいことだった。もちろん、40人とか45人のクラスに黒人が2人しかいないような状況だったから、普通に黒人の多い学校に通ってれば経験しなくてもいいようなことも乗り越えなきゃならなかったしね。でも、そのおかげで自分は強い人間になれたんだと思う。それに、もし黒人の学校に通ってたら絶対に聴かないような音楽にも親しむことができた。もちろん、黒人のフッドで育ったから、そこからの影響もあるよね。そういう意味でも両方の世界から恩恵を受けて、その経験が俺の音楽に絶対的に影響を与えてると思うよ」。
つまりは環境が、引いては街が人を育てたということ。ということで、その街を舞台にしたエミネム主演映画「8 Mile」は観た?
「ああ。いい映画だったよ。95、96年頃のことを思い出させてくれたからね。俺もああやってクラブに行ったり、バトルを観戦したりしてたんだ。フラッシュバックみたいさ。ただ、デトロイトの荒んだ部分ばかりを映してたのは……もちろんそういう地域もあるけど、デトロイトはあんなに廃れてないよ。映画自体は楽しかったけど、街の全部がああじゃないってことを、いろんなとこで説明しなきゃなんない(苦笑)」。
翻って、ドゥウェレにとってのデトロイトはその音楽に反映されている。
「デトロイトではいろんなことが起こってる。ダウンタウンに行くと、ピンプだとか、派手にカネを使ってたりする調子いい奴らがいて、一方ではハングリーで一生懸命やってる人間も多い。その両方にインスパイアされるね。あと、デトロイトは古い街で、古い建物に囲まれてる。オールド・モーターシティーって感じが残ってるんだ。そんな雰囲気にもインスパイアされるよ」。
なるほど。それにしても、優れたアーティストがジャンルを問わずこの街から次々に生まれてくるのはなぜなのだろう。
「デトロイトはずっと昔から音楽の街として有名だっただろ? それがまた注目を浴びるようになっただけだと思う。子供の頃、大きい従兄弟が楽器を演奏してるのを見てて、自分はやりたくないって当時思ってた子供が……いま大きくなってここに出てきてる感じさ(笑)。教会が多いことでも有名だし、この街にいる人たちはみんな楽器を演奏するか、歌うか、ラップするか……何かしらの形で音楽に関わってる。俺たちにとって音楽は自然なことなんだろうな」。
ちなみに不思議な響きを持つ彼の本名、アンドゥウェレ(Andwele)とは、スワヒリ語で〈神が私をこの世にもたらした〉という意味だという。天から降ってきたようなこの素晴らしいソウル・ミュージック。大袈裟なことはひとつも言ってないよ。
▼ドゥウェレのプロデュース参加作品