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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年05月15日 14:00

更新: 2003年05月20日 17:28

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/出嶌 孝次

天才だ、こいつは!!


美しさ。もしくは騒々しさ、黒さ、得体の知れなさ、深さ。当然、デトロイトから生まれてくる音楽が一様の雰囲気をたたえているものとは限らない。また、モータウンやPファンク軍団、あるいはUR一派のようにモーターをフル稼動させて膨大な量の作品を生み出す運動体は、たとえばフォードやクライスラーのシステマティックな生産ラインになぞらえられたりもする。しかしそれはもちろん間違いだ。デトロイトの音楽は型抜きされた大量生産品ではない。アーティストは個性を持っている。そして、その個性の最たるものを備えたのが、このドゥウェレだ。まだその名前を知る人は少ないが、そんなことは関係ない。

みんなを同じ場所に手繰り寄せる音楽

ドゥウェレはデトロイトに生まれ、デトロイトに育ったシンガーにしてマルチ・ミュージシャンだ。幼い頃から楽器演奏に習熟していた彼は、高校に進学するとトライブ・コールド・クエストに影響されてラップを始める。その後、歌も歌うようになったドゥウェレは、98年に制作したデモテープ『Rize』で転機を迎える。

「『Rize』は100本しかコピーしなかったんだ。俺にとっては初めて自分の音楽をそういう形で出すわけで、みんながどう反応するかわからなかったしね。ところが、その100本が1週間で売り切れちゃったんだ。ブートレグはいまも出回ってるけど(笑)。当時、俺は〈St. Andrew〉や〈Cafe Mahogany〉なんかのクラブやカフェで歌いながらデモを売ってて、そこは地元のD12とかスラム・ヴィレッジがよく来る場所だった。スラム・ヴィレッジが俺の音楽を気に入ってくれて、彼らのマネージメントを経由してヴァージンと契約が決まったのさ」。

そんなドゥウェレがバハマディアのプロデュースを手掛けていきなり表舞台に登場したのは2000年のこと。しかも、同年にはリクルースのクラシック“Can't Take It”でヴォーカルをとっている。翌2001年にはジェイ・ディーの『Welcome 2 Detroit』に演奏で参加。他にもニュー・セクター・ムーヴメンツの“The Sun”をリミックスしたり、ソロ曲“A.N.G.E.L.”がジャイルズ・ピーターソンに〈発見〉されたり、彼の立ち位置がヴィクター・デュプレーばりにクロスオーヴァーしていておもしろい……ということに人々も気付きはじめた。そして、今回のファースト・アルバム『Subject』である。雑多なグルーヴが渦巻いていた『Rize』とは異なり、よりサウンドの輪郭がはっきりした印象を受ける。絶品の一枚だ。

「意図的にそうしたわけではないけど、『Rize』を録ってからもう何年も経ってるし、俺もいろいろと学んで少しは成長したからね。ただ、俺の余分な荒さを取り除いてくれたのは今回参加してくれたプロデューサーたちさ。人にプロデュースしてもらうことで、自分では見い出せなかった部分を引き出してもらえたりして、勉強になったよ」。

現時点で詳細なクレジットなどがないのは残念だが……とにかくドゥウェレの音楽は非常にストイック。そして、コモンやディアンジェロを思わせるストリート感や崇高性と同時に、何とも人間臭くてある種のコマーシャルな印象も強い。要はバランスが良いということだ。だから、「俺はできるだけたくさんの人に聴いてもらいたいと思ってる。たくさんの人たちに感じてもらいたいんだ。高校生も30代の人も、俺の音楽でみんなを同じ場所に手繰り寄せるような、そんなことがしたいと思ってる」という理想と、「リアルにやりながらも、世界的にヒットしてグラミーももらえるような音楽を作ることは可能だと思うよ。だから俺は同時に両方を手に入れたいね(笑)」という野心は矛盾しない。

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