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特集

Aphex Twin(2)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2003年04月10日 10:00

更新: 2003年04月10日 15:32

ソース: 『bounce』 241号(2003/3/25)

文/池田 義昭

顔のあるカリスマ

 93年にはエイフェックス・ツイン名義でシングル“On”、そしてそのリミックス盤である『On Remixes』をリリースしたが、そこにリミキサーとして参加したμ-ZIQことマイク・パラディナスとは、突如マイク&リッチというユニットを組んで、96年に『Expert Knob Twiddlers』をリフレックスからリリースしている。このアルバムで聴かせた音は、いままでの彼からは考えられないような、オモチャ箱をひっくり返したかのようなチャイルディッシュなテクノ、とも呼ぶべき幼児性に溢れたもの。同年にはマイク・フラワーズ・ポップをリミックスしたマイク・フラワーズ・ポップ・ミーツ・ザ・スフェックス・ツイン“The Freebase Connection”がローよりリリース。その年にはエイフェックス・ツインとしても『Richard D. James Album』をリリースしているのだが、この96年の作品だけをとってみても同じ人間が作りだしたものとは思えないほどである。こういった部分や、ライヴを小屋の中で行い、そのライヴ中は一歩もステージに出てこなかった!という逸話の数々も、リチャードを変人扱いする要因となっていったのだろう。

 さて、いままで行ってきたリミックスをコンパイルしたニュー・アルバム『26 Mixes For Cash』の内容からもわかることだが、もともと多作な彼の作品がもっともオフィシャル・リリースされていた時期は、93年から96年の間である。しかも、この間にはエイフェックス・ツインとして95年に『I Care Because You Do』、翌96年には前述の『Richard D. James Album』を早々とリリースしている。

 では、この2作品の共通点は? そう、ジャケに自分の顔を使いはじめたことだ。サウンド的な面でも、いわゆるドリルンベースといわれる変則高速ブレイクビーツを多用するようになった時期であるから、そういう共通点もある。ルーツ、原点とされるエイフェックス・ツイン名義の『Selected Ambient Works 85-92』や『Selected Ambient Works II』では幻想的な世界を音にし、音響的に表現していたとするなら、AFX名義では過激で過剰な電子ノイズ、そしてブリ-プ音を駆使してきた。〈ドリルンベース〉はドラムンベースの要素を独自に解釈し、昇華させたもの。どんな音楽でも自分の音に変えてしまう彼は、シンセサイザーを改造したのと同じようにドラムンベースをも改造してしまったのかも知れない。そこに現れるアンバランスさも彼の持ち味だ。凶暴なリズムと内省的なメロディー……ありえない形を彼はあえて音で形にしてしまう。タブーを認めることがタブーであるかのように。

 しかしながら、そんな彼も、その後アルバムをリリースすることをしばらくやめてしまう。〈もうアルバム・リリースは行わない〉と言ってみたりして、あれほど多作だった過去がウソのように、90年代後半は、97年に“Come To Daddy”、99年に“Windowlicker”という2枚のシングルをリリースしただけにとどまっている。が、彼を取り巻く環境は以前に比べて騒々しさを増していった。もちろん、彼自身がそうさせるネタを提供しているからなのだが。

 この2枚のシングルにおけるネタはまたもや〈顔〉だった。その顔がまず見られたのはプロモ・クリップにおいてで、“Come To Daddy”では子供たちの顔が、“Windowlicker”ではセクシーなビキニの女性の顔が、共にリチャードの顔になっていたのだ。その衝撃度は、変人もしくは狂人としての彼のキャラクターを決定的なものにした。『Selected Ambient Works 85-92』のジャケをはじめとして、彼は頑ななまでに、みずからのシンボル・マークに定めたあのサークルと矢印を組み合わせたマークを、幾度となくジャケットのアートワークに組み込んできた。そんな彼が、自身の顔をトレードマークのように使いはじめたのが先述した『I Care Because You Do』と『Richard D. James Album』(しかも、この2枚は顔のアップ)の2枚のアルバム・ジャケであり、その後の2枚のシングルではいっそうセンセーショナルに用いられていたのだ。ここで、彼は完全にキャラクター先行の存在になったとも言え、逆に幅広いフィールドから支持を得ていくことになる。

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