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イノマーにシーンの現状、未来を直撃!

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2003年03月20日 17:00

更新: 2003年05月08日 16:30

ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)

文/武山 英丈

シーンのど真ん中にいるイノマーは、昨今の日本語詞によるパンク・ロックをどのように考えているのか? キッズを惹きつけるその魅力とは?

〈日本語青春パンク・ロック??〉

──最近、邦楽におけるパンク・ロックの元気さが目立っておりますが、そのキッカケになった出来事、時期などを知りたいのです。

「どうなんですかねー。個人的にはGOING STEADYがシングル“東京少年”を発表して、代々木公園のライヴをやったあたりから、おもしろくなってきた印象があります。それ以前にもSTANCE PUNKSなどは独自に活動していたわけですけど、大きな形となって〈これはおもしろくなるな〉と感じたのはそのあたりです。それからすぐにGOING STEADYのセカンド・アルバム『さくらの唄』がリリースされたわけですけど」

──2001年初夏ということですね? そして東京からの視点になるのですが、その後地方からも魅力的なバンドがつぎつぎに台頭してきました。

  「うーん。結果そういうことだったんでしょうね。MONGOL 800やSTANCE PUNKS、GOING STEADYなど、それぞれが違ったフィールドで活動していたと思うんです。それがたまたま繋がっていったのでしょうか? 彼らすべてが〈日本語青春パンク・ロック〉という言葉で括っていいものかどうかはわかりませんが、〈日本語青春パンク・ロック〉を意識してやってるバンドはいないと思うんです」

──そんな呼ばれ方ってイヤでしょうね。

「イヤだと思いますよ。僕も極力使わないようにしてます」

──大きなムーヴメントとしてはブルーハーツの次になるのでしょうか? あらゆる人々を巻き込むことができる〈体力のある音楽〉として、僕はやはりブルーハーツとの近似性を感じたりもするんです。歌謡曲とだって呼べそうな。

「ブルーハーツを否定していた時期がデカすぎたんでしょう。解散後、なかなかブルーハーツの話ができるムードにはならなかった」

──やはり、ブルーハーツの存在が大きいと……。

「デカいでしょう。それ以前にもいろんなバンドはありましたが、マス=数字というもので、大衆性を実証することができなかったわけですから。ブルーハーツがはじめて実証してみせたと思うんですね」

──あと、彼らの作品は、現在もしっかりカタログとして機能してますよね。今回の特集にあたって、20歳前後のバンド・メンバーの話を訊いているのですが、彼らが影響を受けたものとしてブルーハーツの名前はよく挙がります。しかし、ブルーハーツの存在自体は彼らにとってリアルタイムじゃないわけですよ。CDショップの〈昔のアルバム〉がリアルタイムなんです。

「そうですね。たしかにブルーハーツのあとに出てきたバンドたちの作品を聴きたいと思っても、いま、なかなか手に入りませんもんね」

──自身も音楽をやられているわけですが、ミュージシャンという立場からすると日本語というのは魅力的なツールなのですか?

「僕にとっては100%……いや違いますね。英語で文章や曲を書こうと思ったことは一度もないですし、会話をすることもないので、僕のなかに英語をチョイスするっていうのはゼロですね。それは〈こだわり〉とかいうものではなくて、〈普通〉なんです。逆に言えば、90年代中~後半の英語詞全盛の時代が特殊だったような気がしますね」

──なるほど。それでは現在のこのムーヴメントを、実際に動かしているのはどんなファンなのでしょうか?

「中高校生だと思います。すごい若い子。僕、〈STREET ROCK FILE〉という雑誌を出しているのですが、そのアンケートを見ていても地方の中高校生が多いから」

──男女の比率とかは?

「半々ぐらいですね」

──驚くことに彼らは、僕らが知らないようなバンドを知っていたりしますよね。そこで気になったのは彼らの情報入手先とそのネットワークなんです。

「おそらく、携帯電話やインターネットなんでしょうね。たしかに知らないバンドの名前がポンポン平気で出てきたり……彼らのネットワークってスゴイですね」

──ライヴはどんな状態なんでしょうか? お祭りっぽいもののような気がしてますけど。

「そうなんでしょうね。あんまり一人で来ている人って見かけないですね。みんな4、5人で来て、物販のTシャツ買って、いい汗かいて、帰っていく……。非常に健康的なものを感じます。80年代、僕らのときって、けっこうみんな一人で来てたりしましたからね。なんかもっと切実だったような気がします。それはそれで時代が違うから、もちろん善し悪しの話ではありませんよ(笑)」

──パンク・ロックの価値観も変化したような気がします。80年代だと、ライヴハウスへ行くにも〈度胸〉みたいなものが必要とされました。本当に重いドアだった。怖い人もたくさんいたし(笑)。

「うんうん。〈怖いもの見たさ〉っていうのが、いちばんデカかったと思うんです。それこそ当時のスターリンにしろボアダムスにしろ誓約書書いてまでライヴを観てましたから。いまじゃあり得ませんよね(笑)。それでも通っていたのは、なにかの目撃者になりたいっていう意識が働いていたんだと思います」

──いまはとにかくスポーティーな状況ですよね。

「そうですね(笑)」

──現在の活況にはどんな理由が考えられますか?

「やはり、〈言葉〉の力がデカイと思いますね。だれでも10代の悩める時期に〈負けるな〉って言ってもらいたいんだと思う。それがバンド側の表現と一致したんでしょうね。昔は〈ブッ壊せ〉って言ってたものが僕らの勇気の原動力になってたわけですけど、いまはそうじゃなくて、もっと親しみやすいかたちになったんだと思います」

──それが支持される理由だと?

「商品としては洗練されていないのかもしれないけれど、生々しい言葉が持っている荒々しさ、リアルさに支持が集まっているんではないでしょうか? まるで友達や先輩から言われているような言葉のかたちで……」

──なるほど。では最後になりますが、非常にイジワルな質問です。今後のシーンを占ってみてください。

「今年はいろんなことが変わっていくように思います。曲のなかでもさらに歌詞が大事にされていくような気がしてますね。僕、ブルーハーツの(甲本)ヒロトさんや真島(昌利)さんって、ものスゴイ音楽家で、ものスゴイ詩人なんだと思うんですよ。だからこそあのバンドが大きくなったわけで……、いまのどのバンドをみてても歌詞はまだまだブルーハーツに追いついてないなって思います。演奏もサウンドも機材もバッチリなんだけど、言葉に関してはまだまだ10~15年前のものに太刀打ちできていない。だからそこに大きな期待を寄せていて、もしこの流れをさらに加速させるとしたら、そこに可能性があるような気がします。そのためにはいろんな経験を積んで、いろんな思いをしないと言葉は生まれてこない。痛みを知らない人間が人の痛みを歌おうとしてもそれは無理なことですからね」

▼文中に登場するバンドの代表作を紹介。

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