度重なるビーフ、そしてゲームの根源にある〈バトル〉の精神(2)
JAY-Z vs. NAS
まず、ナズがミックステープで発表した“Stillmatic”(同名アルバム収録曲とは同名異曲)が軽いジャブとなり、ジェイ・Zが“Takeover”でナズのキャリアを追いながら丹念にディス。ナズは焦らず、じっくり考え、間を置いて“Ether”を発表し、巧みな比喩を交えて反撃。この曲でバトルを終わらせる、と自他共に認めるほどの自信作だったからか、ジェイ・Zは慌てて“Super Ugly”を発表。が、その曲が彼自身の母親を怒らせるほどえげつない内容だったため、この戦いは急速に終息に向かう。その後はインタヴュー(P46~47)内にあるとおりだが、〈POWER105.1〉の番組でラジオ局の裏事情と共に数人のラッパーたちのスキルのなさも暴露。そのなかの一人として名指しされたキャムロン(ジェイ・Zのロッカフェラに所属)は、ナズの子供や亡くなったばかりの彼の母親までをも攻撃したフリースタイルを出し、子供の母親に激しく非難されて謝罪している。
JA RULE vs. DMX
ジャ・ルールが登場した時、DMXに似てないか?と思ったリスナーは多かったが、当のDMXも同意見だったに違いない。2年前の“Do You”で(名指しではないが)牽制、聴きようによっては、それ以前に出ていた“We Don't Give A Fuck”でも、〈お前を消すまで戦争を続ける〉とかなりお怒りの様子だった。そうこうするうちに、ジャの人気は高まるばかり。DMXいわく「とくに悪感情は抱いていなかったが、売れるにつれて、自分に対する態度が変わってきた」ことに呆れ、ジャをディスる内容の“Ruled Out”を録音、周囲の反対を押し切って、新作に同曲を収録すると表明した。対するジャは、その“Ruled Out”を聴きもせずに“The Pledge(Remix)”で、先回りして反撃。その後はラジオ出演時に「DMXはクラックヘッド(ヤク中)だった」などとジャが暴露し、DMXもラジオで応酬、と舞台を変えて続行中。
EMINEM vs. BENZINO
ベンジーノは、かの「The Source」誌の共同オーナーという肩書きを利用して、同誌への無料広告掲載をエサにモータウンと契約し、制作費をかけてアルバムを作るも売れず、自腹でプロモ・クリップを作り、契約を切られればエレクトラに移籍……と業界内で生き延びているのも実は〈そのスジの人たち〉の後ろ盾があるから……だという困り者。スキルもストリートからの支持もないのに、どうにか目立とうという彼は、エミネム人気にあやかろうと、まずはフリースタイルで攻撃を仕掛けた。が、エムは仲間の50セントが出演中のラジオ番組にみずから電話をかけてその曲をリクエストするという余裕を見せつけ、その後“The Sauce”なる人を小馬鹿にしたタイトルの曲で反撃。怒ったベンジーノは“Pull Your Skirt Up”でエムとクルーをディス。それに対してエムとオービー・トライスは“Nail In The Coffin”で応戦。ベンジーノも負けじと“Die Another Day”を発表……とまだまだ続きそうな勢いだ。