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思い出話にはならない存在感

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2002年09月07日 18:00

更新: 2003年03月13日 18:43

ソース: 『bounce』 231号(2002/4/25)

文/イノマー

 ここ最近、何度目かのブルーハーツ・ブーム(?)である。ご本人たちの好むと好まざるにかかわらず、ブルーハーツ・ブームなのである。現象というものはそういうものだ。キッズに大人気の175R(イナゴライダー)のヴォーカル、SHOGOくんのところに<いま、ブーハーツというバンドがすっごくいいです。知ってますか? 聴いてみてください!!>というファンからのメールが届いたらしい。ブーハーツとはもちろん、ブルーハーツのことである。この話を聞いたときに、あ~、もうすでに1周しているんだなと痛感した。じゃあ、そろそろ、ブルーハーツに関して話すのも解禁かな、と。正直、個人的な話、90年代後半はブルーハーツに関する原稿を書くことにはいささかの抵抗を感じていた。ボクは『EAST WEST SIDE STORY』(95年)という彼らのベスト・アルバムでかなりロングなライナーを書き、それでブルーハーツに関しては一切、語らないつもりでいたのだ。なぜかはわからないが、それが彼らに対する礼儀のようなものと考えていたのだ。終わってしまったことを、あーだこーだと語るのはフェアじゃないと思っていた。ところが、ブルーハーツは終わってはいなかった。終わらない歌。が解散後もずっと鳴り続けていたのである。

日本のロック史にとって、忘れられない年となった87年

 甲本ヒロト(ヴォーカル)とマーシーこと真島昌利(ギター)らによってブルーハーツが結成されたのは85年初頭のことである。その後、何度かのメンバーチェンジがありつつ、河口純之助(ベース)、梶原徹也(ドラムス)が加入してパーマネントなメンバーとなったのは86年のこと。元々ヒロトとマーシーは、コーツ(ヒロト)、ブレイカーズ(マーシー)という別々のバンドで活動していたわけであるが、ロックンロールの神様はちゃんと見ていてくださっていた。2つのバンドともに同タイミングで解散となり、知り合いであったヒロトとマーシーはここにめでたくバンド結成となった。スーパー・バンドの誕生である。野球で言うところのオールスターみたいなもんだ。もし、仮にブルーハーツがなかったとしても、甲本ヒロトも真島昌利も必ずや自分のバンドで世に出てきた男である。それが同じひとつのバンドにいるわけである。この黄金のバッテリーを中心に結成されたブルーハーツがその後、日本のロック・シーンを大きく揺り動かすことになったのは、当然といえば当然であったのだ。

さて、ブルーハーツが日本のロックの歴史に残した功績というものはとてつもなく大きなもので、それは出来事というよりも、ある種、昭和を代表する事件のようなものでもあった。戦後、日本ロック史において、もっとも大切でショッキングな年は87年であるとボクは断言する。そう、ブルーハーツが『THE BLUE HEARTS』という戦前戦後も含め、最大級の破壊力を誇るデビュー・アルバムを日本国内に投下した年である。あれは忘れもしない5月のことだった。当然、若者たちのハートは跡形もなく、グチャグチャに破壊された。開けてはならない若者たちのパンドラのハコをブルーハーツは開けてしまったのである。それまでは黙ってガマンしていればいいと思っていたことを、ブルーハーツは34分程度のロックンロールでぶっ壊してしまったのである。ロック・ミュージックのパワーをこれほどまでに感じたことはない。若者たちの暴動すら起きてもおかしくない、ブルーハーツのデビュー・アルバムとは果たしてどんなものだったのか?

 どこまでもシンプルなジャケットとは裏腹に、複雑で行き場のない10代の思いをストレートに歌った楽曲がこれでもかというくらいに収録されている『THE BLUE HEARTS』。サウンド的にも新しいことはなにもない。とてもじゃないが、前衛的なサウンドとはいえない。が、シンプル・イズ・ベストというもっとも効果的な<やり方>で、ブルーハーツはメジャー・シーンに突入してきた。そもそも、ブルーハーツのメンバー、特に甲本ヒロトと真島昌利はブルースやソウル・ミュージックなどの黒人音楽にも造詣が非常に深いミュージシャンである。パンク・ロックしか聴かない、聴けないという偏屈な人間ではなく、幅広く深く、音楽というものを愛する、かなり良質(?)なリスナーでもある。そのへんの蓄積の放出は、3枚目のアルバム『TRAIN- TRAIN』あたりからチラリと窺えるわけであるが、デビュー・アルバムの『THE BLUE HEARTS』に関してはまったくといっていいほど、感じられない(笑)。それがすごい!! 普通、金持ちは金持ちっぷりを見せびらかすし、モテモテマンは自分のモテっぷりを自慢するもんである。彼らが、いかに音楽に詳しいかを楽曲でひけらかすことは簡単であったと思う。が、ブルーハーツは『THE BLUE HEARTS』でそれをしなかった(当時はまだできなかったのかもしれないが……)。

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