こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

山下達郎と歌謡曲

いま<山下達郎と歌謡曲>というテーマで書き始めて、まず参考に、と筒美京平の アンソロジーCD『HISTORY』のブックレットに掲載された山下達郎のインタヴューを あらためて読み始めた。読み始めたら、あれれ、もう、そこですべて本人に語り尽く されていた。彼が他の歌手に提供した楽曲リストをざっと眺めると、そのインタヴュ ーで本人が冷静かつ、ややシニカルに「歌手の音楽的ステイタスを上げるための、ア ルバムの中の装飾品(として依頼された)」と語る、そんな曲たちに混じって、近藤 真彦の“ハイティーン・ブギ”(82年)と、KinKi Kidsの“硝子の少年”(97年)の 2曲は、やはり異質である。そのインタヴューでも、職業作曲家=筒美京平を仮想敵 とした特別な意識とともにみずからが職業作曲家としての手腕を発揮したと語られる だけあって、一見、匿名性がある。“硝子の少年”は、ずばり<山下達郎が考えるア イドル(ジャニーズ)歌謡>であるが、<いま(現在)、この世に存在していない音 楽で勝負>という意味においては、彼のオリジナル曲に(いまのヒットチャートから 失われた)往年のポップ・ソング/ロックンロールの要素をストレートに表している ことと、まったく同じなのかも知れない。さらに付け加えれば、ライヴで披露された 本人自身による“硝子の少年”を聴いたら、これがもう、達郎節以外のナニモノでも ないワケで、ここにも楽曲と歌う作家との深いマジックがあるのだった。

 <山下達郎と歌謡曲>というお題で、僕がなにより先に思い出すのは、 アン・ルイス“恋のブギ・ウギ・トレイン”(79年)と、フランク永井“WOMAN”(82年)。と もに作家と歌手、それぞれの特性が心地良く<立っている>名曲。あと、レコード化 されたものではもっとも古い、黒木真由美のアルバム 『12のラクガキ』(75 年)に収録された1曲“北極回り”は、演奏がシュガー・ベイブという価値以上の魅 力がある。なんらかの形……<喫茶ロック>ででも、いや、<ででも>という言い方 もないが(笑)、ぜひ復刻してほしい。

 <山下達郎と歌謡曲>というテーマで、まず、他の歌手への提供曲を考えたのだが 、同時に忘れてはならないのが<歌謡曲としての山下達郎>だ。大滝詠一が「この一 曲をもって彼が日本歌謡史に残る」とする“CHRISTMAS EVE”は言うまでもない。“ あまく危険な香り”はムード歌謡と同じ機能美を備えた名曲だと考えたら、うぶ毛も そそりたつ。

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2002年09月07日 03:00

更新: 2003年03月13日 18:43

ソース: 『bounce』 229号(2002/2/25)

文/安田謙一

インタビュー