達郎がキャッチした6つの感覚
DOO-WOP
「これやりたくてオリジナル作っている」なんて極論も折りに触れて。コーラス・アンサンブルやヴォーカル・ハーモニーに対する造詣の深さは計り知れない氏だが、もっとも心ときめかされ続けてるというのがこのプリミティヴなストリート・コーナー・シンフォニー。それもブラック・ピープルに生まれてこなかった宿命としてのホワイト・ドゥーワップ(もちろん優劣ではなく、スタンスとして)を身上としながらも、資質に甘んじないたゆまぬ鍛錬で、いまや無二の境地にあるのは誰もが認めるところ。フラミンゴズ、ダブズ、ファイヴ・キーズ、ファイヴ・ロイヤルズ、ハープトーンズ、クローヴァーズ、デュプリーズ、キャディラックス、フランキー・ライモン&ティーンエイジャーズ、リトル・アンソニー&インペリアルズ、ドリフターズ……と白黒混交、〈ON THE STREET CORNER〉シリーズでトライしたなかでは、やはりムーングロウズへのただならない思い入れがひしひしと。『MOONGLOW』というアルバム・タイトルや〈MOON〉という自身のレーベル名にも、それは如実。また、ブルーアイド・ソウルまでの橋渡し役にもなるディオンやクレスツのジョニー・マエストロ(のちにブルックリン・ブリッジ結成)といった個性派イタリア系アメリカンへのシンパシーも相当に。そして〈DRIPITY DROP〉――溢れる想いは“Marie”“夜の翼”“おやすみロージー”など、幾多のオリジナル・アカペラのなかにも。
ムーングロウズ『The Ultimate Collection』(Rhino)
ディオン&ザ・ベルモンツ『Best Of』(EMI)
クレスツ『The Best Of』(Rhino)
AMERICAN POP
FENにかじりついていた若き日のラジオ・デイズ。人気DJ、ジム・ピューターが繰り出すドリーミング・アメリカン・ポップスにどっぷり。エルヴィス・プレスリーやバディ・ホリーのロックンロールから、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、シュープリームスなどモータウン・サウンドまで、白人黒人お構いなしに魅せられていたのでは。なかでもヴェンチャーズとの出会いが運命的で、コンサート・プログラムに載っていた曲目リストの中で、自分好みの曲を手掛けた作家が――ジェリー・ゴールドスミス、ジャッキー・デシャノン、バート・バカラック、ロイ・オービソンなど――偏ったものだと判明してから、世界は一気に拓けていく。音楽工房、ブリル・ビルディング周辺に集った職業作曲家たち――ジェリー・ゴフィン&キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ウェイル、ジェフ・バリー&エリー・グリニッチ、ドク・ポーマス&モート・シューマン、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラー、テディ・ランダッツオらが送り出した素敵なヒット・ソングスで華やいでいたシンガーズ&グループス。とりわけフィル・スペクターの壮大なウォール・オブ・サウンドは驚くべき色彩感を放っていたためか、“雨は手のひらにいっぱい”“2000トンの雨”“ヘロン”など、たびたび踏襲することに。
バリー・マンが手掛けた作品を編集した『Barry Mann Songbook』(Universal)
フィル・スペクターが手掛けたポップ・グループ、クリスタルズ『Best Of』(Abcko)
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