90年代から現代へ受け継がれるスピリット
90年代――それはハワイアンにとって、豊作の時代でもありました。数多くの名盤が発表された時代を振り返りつつ、まずは現在に繋がる水脈をゆっくりと辿ってみましょう
80年代の終わりから90年代初頭にかけて、ハワイを席巻したのは〈ジャワイアン〉と呼ばれる音楽だった。〈ジャマイカ+ハワイアン〉でジャワイアン。文字どおり、レゲエのリズムを採り入れたハワイアンで、ロコ(ローカル)・ピープルによるロコのための音楽。そんな印象も強い。ブッチ・ヘレマノやホアイカネ、シンプリシティなどが人気を博し、パヒヌイ・ブラザーズやピーター・ムーンなどもジャワイアン風の曲を録音するようになった。
そうした一方で、ハワイの外部からはアコースティックなハワイアンが注目されるようになった。85年からハワイ音楽を録音してきたウィンダム・ヒルのジョージ・ウィンストンは、ハワイ音楽専門のレーベル、ダンシング・キャットを設立。サニー・チリングワースらのスラックキー・ギターを積極的に紹介していった。加えて、93年にはフロリダにあるココナッツ・グローヴがハパのファースト・アルバム『Hapa』をリリース。ハワイのみならず欧米やここ日本でも話題を集めて、世界で計25万枚というセールスを記録している。
ハパと同様に、伝統的な要素と現代性がうまく交わった若いアーティストが次々と出現してきたのも90年代前半のことだった。80年代にスティーヴ&テレサとして活躍したテレサ・ブライトもソロ・デビューを果たし、91年にはハワイのグラミーと称される〈ナ・ホク・ハノハノ賞〉の〈アルバム・オブ・ザ・イヤー〉を受賞。その後に活況を呈する女性ヴォーカリストたちに道を拓いた。たとえばロビ・カハカラウはハワイアン・スタイル・バンドの一員として“Love & Honesty”などのヒットを残したのち、95年にはアルバム『Sistar Robi』でソロ・デビュー。それを追うようにしてエイミー・ハナイアリイ・ギリオムも登場し、エイミーは98年にウィリーKをプロデューサーに迎えて見事なアルバム『Hawaiian Tradition』を作り上げた。
男性シンガーでは、まず筆頭に挙げられるのがケアリイ・レイシェルだ。17歳から独学でチャントを学びはじめ、ハワイ語も習得。そして94年にデビュー・アルバム『Kawaipunahele』をリリースすると一気に人気を不動のものにしている。そんなケアリイにデビューするきっかけを与えたのはマカハ・サンズ(オブ・ニイハウ)だったが、メンバーだったブラザー・イズ(イズラエル・カマカヴィヴォオレ)は91年にソロに転じてさらなる成功を収めた。曙、武蔵丸、そして小錦の名を歌い込んだ“Tengoku Kara Kaminari”(95年)はブラザー・イズの代表曲のひとつ。これは寺田創一がリミックスを施し“相撲Jungle”として日本では話題になった。イズは97年に38歳の若さで他界、彼の不在を惜しむ声はいまも大きい。
さらにウィリーKとフィジーは新しいタイプのアーティストといえそうだ。ヴォーカルのみならず、ギターやキーボード、プログラミングなど数多くの楽器を操りながらプロデュースもこなす。全体のバランスを掌握しながらサウンドを作っていく、いまどきのR&B型に近いアーティストなのだ。キレモノのプロデューサーが少ないことはずっとハワイアンの弱点だったわけだけど、若い才能が順調に伸びてくるとその様子も変わってくるかもしれない。
かつてジャワイアンが伸してきたように、いまのハワイにはヒップホップやクラブ・ミュージックもある。なにしろ、アメリカ合州国の一部ですから。ヒップホップでは、民族の誇りやハワイの独立、ドラッグ問題までを俎上にあげてラップするサドゥン・ラッシュがその代表的なグループ。クラブ系でびっくりしたのは98年の『Native Grooves』というアルバムだ。これはテレサ・ブライトのいとこで、池澤夏樹の「ハワイイ紀行」でも大きく取り上げられているフランク・ヒューイットが、みずからのチャント(古くから伝わる祈りの唱え文句)をハウス~ヒップホップ系のバック・トラックに乗せた作品だった。なにしろ、ハワイの伝統に一家言を持つヒューイットがこうしたアルバムを作ったことに驚いたのだ。
同じ98年には若いピュア・ハートが登場、しかしクリスマス盤も含めて3枚のアルバムを残したのち、学業などを理由にあっけなく解散。メンバーだったロパカ・コロンとジェイク・シマブクロはコロン結成へと動き、2000年暮れにリリースされた『The Groove Machine』はベストセラーになった。さらに今回、ジェイクはソロ作も発表し、着実にキャリアを積み上げているところだ。
文中に登場したアーティストの作品を紹介。
- 前の記事: HAWAII CALLING
- 次の記事: 現在のハワイアンを知るにはまずこちらから!!(1)