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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2002年07月03日 18:00

更新: 2003年03月20日 15:07

ソース: 『bounce』 233号(2002/6/25)

文/桑原シロー

まるで片思いのようにオキナワに恋をし続けてきた宮沢和史。再度、オキナワの唄の魅力に迫った新作『OKINAWA~ワタシノシマ~』に映り込んだオキナワの光とは? 旅は彼と会うことからはじまった


この特集の取材旅行に出る前にどうしてもこの人に会って話を訊いておきたかった。「オキナワのことについて訊きたいのですが……」と申し出ると、彼は「喜んで」と応じてくれたのであった。

THE BOOMの新作『OKINAWA~ワタシノシマ~』は、モンゴル800やKICK THE CAN CREWといった若いミュージシャンを呼び寄せて、彼らがこれまでに発表してきたオキナワをテーマにした楽曲を大幅にリメイクした、いわばTHE BOOMとオキナワの〈歩み〉を綴った作品だ。

「最初は〈音によるオキナワのガイドブック〉のようなものになればいいな、と考えていたけど、完成してみたらオリジナル・アルバムと同等の濃いものになった。作ってる最中も楽しくて、ほんと仕事じゃないみたいだった」と宮沢さんは語りはじめた。

僕と編集者の2人は数日後、オキナワに行く。いま目の前でオキナワについて喋る彼は、まさしくガイド役となって僕らをかの地へと飛ばしてくれるのだった。

「僕は山梨に育ったんで、海を知らなかった。はじめて東京へ出ていったときの驚きはさほどのものではなかったけども、数年後に沖縄に行ったときの驚きはもう強烈だった。海、山、洞窟――想像を超える自然の驚異が目の前に現れて、ゾッコンになったんです。それから心が吸い取られたようになって、もうビョーキみたいに。〈沖〉とか〈縄〉って字を見るだけですべてオキナワに見えてきて(笑)」。

オキナワから感じ取ったものが彼のなかで波紋を起こし、次第にクリエイティヴな形となっていった軌跡が新作では描かれている。オキナワは彼に何を語りかけてきたのだろうか?

「〈お前、なんにも知らないんだな。もっと見ろ、学べ〉って言ってくれた気がした。あまりに無知な自分が嫌になった」と彼は話してくれた。

「そうなんだ……」と僕らは静かに頷いた。
            
「でも、〈その魅力は何ですか?〉って訊かれたら、〈そこに住む人間〉って答えるかな。男は大きくて優しくてタフで、女はよく働いて強くて家庭をしっかり守って、みんな歌や踊りが好きでお酒が好きで。 あの人たちに会いたいからオキナワに向かうっていうかね」。

かつて彼は自分に刃を向けるような物々しい“オキナワ”なる曲を書いた(99年作『NO CONTROL』に収録)。オキナワの光と影を綴り、それが広く認知されるようになった後、「自分たちのケツを拭く」ために書かねばならなかったこの宿命的ナンバーの発表を経て彼のなかで何が変化したのか? 僕はそれをずっと知りたかった。

「あれ(“オキナワ”)を書いてものすごい気が楽になって、〈俺はもう死ぬまでここが好きだな〉って思えた。初恋して、片思いが続いて、君が好きだと言いながら届かぬ思いに身悶えてるような状態を越して、〈オキナワ病〉も治って……オキナワに一生通う、そしていつか住む、という確信が生まれた。そんなころにアルゼンチンから“島唄”が聞こえてきた」。


〈相思相愛〉という言葉が羽根をつけて頭の中を駆けめぐる。まさしく歌詞のごとく〈風に乗り海を渡った〉大いなるマスターピース。

「カッコつけるわけじゃないけど、〈お前これ歌えよ〉ってオキナワに言われてるような気分で“島唄”を作ったんです。〈渡された〉って感じで。そして、もうすでに作った僕から離れていった。なんでこんなにいろんな人にパスすることができるのかっていえば、それは〈オキナワの力、オキナワの持ってる大きさ〉なんだろうな。その力があの唄を持ち上げて、それから予想もしないような場所で受け取る人がいて。アルフレッド・カセーロは、〈俺はまた誰かにパスしていくよ〉みたいなことを言ってたけど」。              

「オキナワは初めて?」と彼に訊かれ、「ええ」と答えた。「オキナワに行くとモノが邪魔になる。東京は全く逆でしょ? 情報や知識で武装しなきゃならなかったり。でもいらないじゃん別に、っていうのは多々あるよね。そういうのに気づいちゃって向こうで暮らしている人がゴマンといるんだよね、オキナワには」。

テーブルに置いた彼のコーヒーカップの中に波紋が拡がっているのが見えた。彼の話を聞きつつも、僕の気持ちはここにはなかった。彼は最後にこう言った。

「僕も、いっしょに行きましょうか?(笑)」。

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