PEOPLE TREE─キーワードで見る、ピープル・トゥリー─(2)
キーワード・その2 ジャパスタ
90年代はスタンダードの質を劇的に変えたディケイドでもあった。ゲイト・エコーに代表される〈いかにも80年代〉なドラム・サウンドは影を潜め、よりウォームでナチュラルなビートが全体的な傾向となっていったのだ。そうした変化は音響面にとどまらず、機材や録音技術の進化の一方で、楽曲の基本的な構造――メロディーや演奏――は、シンプルかつオーソドックスな形をとるようになっていった。イギリスではオアシス、ブラーといったバンドが〈ブリット・ポップ〉と呼ばれはじめたころ、ここ日本でも、Mr.CHILDRENやスピッツといった、楽曲や演奏の随所に新世代ならではのひらめきを窺わせながらもシンプルかつドラマチックなポップを演奏するバンドが、お茶の間レベルにまで浸透しつつあった。彼ら新世代バンドが演奏する音楽は、新定番(ジャパニーズ・ニュー・スタンダード、略してジャパスタ!!)と呼ぶにふさわしいオーソドキシーに溢れていた。なかでも、サニーデイ・サービス、ヒックスヴィル、Great 3、かせきさいだぁ、TOKYO No.1 SOUL SETといった、いわゆる〈耳の早い連中〉に支持されたアーティストたちは、いずれも野心的かつ先進性溢れるクリエイティヴィティーを発揮しながらも、その音像はアコースティックで、言葉は叙情的であった。90年代の若きリスナーたちは、そうしたバンドの背後にある雑多な音楽の影響の中から、はっぴいえんどの影を発見したのだ。かくして、はっぴいえんどは定番として次世代に聴き継がれていくことになった。