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特集

奇蹟の四人の足跡

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2002年06月06日 13:00

更新: 2003年03月13日 18:55

ソース: 『bounce』 232号(2002/5/25)

文/湯浅 学

ハッピーエンドの思い出話

  まだ、音楽ソフトの9割以上が塩化ビニール盤とカセットテープだった20年ほど前、俺のうちに遊びに来た高校1年生の男子が突然言った。

「昔、ハッピーエンドってバンドがいたんですか? 日本に」

そのころ、はっぴいえんどの名前は、YMOや大滝詠一『A LONG VACATION』に関して語られるときにしばしば挙げられていた。当時、はっぴいえんどのLP『はっぴいえんど』と『風街ろまん』は、店頭を探せばSMS盤が入手可能だったがカタログ上は廃盤、ベルウッドからの『HAPPY END』『CITY』『ライブ!! はっぴいえんど』『シングルス』はオーダー可能の現行盤であったと記憶している。いずれも、中古盤店でなら(その気になれば)すぐに入手可能だった。

「聴いてみたいの?」

「えー、持ってるんですか? すごく聴きたいです」

高1男子は静かに興奮していた。最近、佐野元春のファンになり、佐野がラジオではっぴいえんどの素晴らしさを語るのを聴き、気になっていたのだという。

俺はそのとき『風街ろまん』をかけた。高1男子は黙って聴いていた。その高1男子をうちに連れてきた俺の女友達は「ひさしぶりだなあ」と何度も言った。その女友達と俺は、はっぴいえんどばかり聴いていたあのころのことや、俺が高校時代と浪人時代にはっぴいえんどやはちみつぱいの曲をレパートリーにしたバンドをやっていたことなど、昔話をした。昔話といっても7~10年前のことだった。とりとめのない思い出話をしているうちに『風街ろまん』が終わった。高1男子がぽつりと言った。

「佐野元春よりいいかもしれない」

「他のアルバムも聴く?」と俺。

「いや、いいです。買ってからの楽しみが減りますから。今回はこれを買って帰ります」

高1男子は『風街ろまん』のジャケットを手にしながらそう言った。いますぐにでも俺のうちから出て行きたがっているようだった。

あれからその高1男子とは逢っていない。伝え聞くところによれば、あの後しばらくはっぴいえんどしか聴かなくなったという。生きていればあの高1男子もすでに35歳か。

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