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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2002年05月23日 21:00

更新: 2003年03月13日 19:00

ソース: 『bounce』 231号(2002/4/25)

文/栗原 聰

DJシャドウがついに帰ってきた。もちろん、まぎれもないヒップホップ・アルバムを携えて!!

崩すことを意識していたね


 6年ぶりだ。『The Private Press』と名付けられたDJシャドウのセカンド・アルバムが、まもなく到着する。

前作『Endtroducing...』がリリースされたのは96年。『Please Please Me』から『Abbey Road』までの歳月、なんて考えるとずいぶん待たされた印象はあるが、『Endtroducing...』が与えた衝撃の余韻が残りっぱなしだったのみならず(それは未来へと続くだろう)、数々の活動で彼の名を忘れることはなかった。現在も友人関係は続いているというモ・ワックスのジェイムズ・ラヴェルとの壮大なプロジェクト=アンクル、ソールサイズからヴァージョン・アップさせた本拠地のクアナム(現在『Spectrum』の第2弾を準備中)、同胞のブラッカリシャスのプロデュース、映画「Dark Days」に主題歌を提供、さまざまなツアーに参加……また、最近でのトピックとして忘れられない『Brainfreeze』『Product Placement』と続いたカット・ケミストとの7インチ・プロジェクトもあった。

「この6年の間にさまざまな影響を受けて、それがアルバムに反映されていると思うよ」。

シャドウらしいドライなビートにふたたび触れることのできるニュー・アルバムはこの5月、リリースを迎える。

「96年より後に出てきた新しい音楽も聴いたし、96年より前の、自分が興味を示さなかったような音楽も改めて聴いたね」。

新作『The Private Press』は、シャドウの音楽に対する期待に十二分に応えるものであるし、同時に、想像しやすい予想を裏切る内容でもある。「同じことは繰り返さない」という哲学を持つジョシュ・デイヴィスによる、フレッシュな驚きに満ちた野心的なトラックが並ぶ。

「技術的にも、音楽的にも……エモーショナルな部分でも、スタイルでも、今回はあらゆる面で自分自身の領域を広げ、新しいことにチャレンジしたアルバムだね。それがテーマ。ひとつの流れに収まらないこと」。

例えば、3曲目の“Un Autre Introduction”。

「もともとは、よくあるヒップホップ・レコードのようなものだったんだけど、録り終えて聴いてみると、それはいままでの手法といっしょで、変わり映えしないものだった。そうすることに嫌気が差して、フランスのラジオのジングルっぽくしてみたら、いままでにないようなものになった。そういう風にひとつの流れに収まらないよう、崩すことを意識していたね」。

シャドウは何度も〈チャレンジ〉という言葉を口にしていた。たしかに曲ごと、その瞬間ごとに脳裏をよぎるキーワードは以前より多くなった。

「サンプリングだけでいいと思ったんだ」。

『The Private Press』は、クアナムからラティーフ・ザ・トゥルース・スピーカーが“Mashin' On The Motorway”でマイクロフォンを片手に参加しているくらいで、サンプリングを主体に築き上げられている。〈ヴォーカル〉をフィーチャーした曲は数曲あり、例えば、ダウンテンポの“6 Days”は68年のサイケデリック・レコードから、ニュー・ロマンティックな“Blood On The Motorway”は80年代のレコードから引用されている。

「もちろんヴォーカル・パフォーマンスは入れたかったんだけど、わざわざヴォーカリストを探してきてレコーディングするってことはしたくなかったんだ」。

手法は異なるが、ヴォーカル・パートを入れることはアンクルでの経験が活かされているともいえそうだ。

「アンクルをやってもいいと同意した理由は、それまでMCに曲を書いたことはあっても、ヴォーカリストのために曲を書いたことはなかったからなんだ。スゴく良いチャレンジになったし、いろいろなことが学べ、音楽的な視野も広がった」。

カット&ペーストされたカヴァー・アートも物語るサンプリング・アート・アルバム『The Private Press』。エディット魂炸裂の“G D M F S O B”は放送禁止となるような汚い言葉の頭文字を並べた曲名で(ヴォーカル・ヴァージョンも制作中だという)、“Mashin' On The Motorway”は曲の最後に主人公が事故り、次の“Blood On The Motorway”へと繋がる。笑いや遊びのセンスがあるアイデアは必須だと語る。

「なぜかっていうと、僕って悲しい曲を作るほうが得意じゃない?」。

思わず一同爆笑。

「だから、ハッピーな部分やライトなタッチの部分をなるべく入れるようにしてるんだ(笑)」。

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