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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2002年04月04日 05:00

更新: 2003年03月18日 20:50

ソース: 『bounce』 230号(2002/3/25)

文/村尾 泰郎

〈大型客船で世界旅行〉──そんなコンセプトをもとにしたデヴィッド・ブラウンのプロジェクトがこのブラザヴィル。最新作『Rouge On Pockmarked Cheeks』のめざす先とは、果たして……?


例えばたったひとつの果物。その見知らぬカタチ、匂い、味わいが、行ったことのない世界をふわりと感じさせてくれるように、音楽もまた、五線譜で描かれたガイド・ブックの役割を果たしてくれる。

なかでも〈ブラザヴィル旅行社〉のガイドなら効果満点。ベックの良き親友であり、彼のバック・バンドではサックスを担当しているデヴィッド・ブラウンによるプロジェクト、ブラザヴィルの通算3作目となる最新作『Rough On Pockmarked Cheeks』は、まさにまさになエキゾティックなナンバーが並ぶなか、〈果物の女王〉マンゴスチンが何度も顔を出す。まるで彼の熱帯願望を象徴するように。

「まさにそうだね。アメリカで輸入を禁止されている果物なんだけど、僕は大好きなんだ。それは甘くてラヴリーだけど、同時に縁起悪さも感じる。禁じられたフルーツっていうか(笑)」

ブラザヴィルの音楽は、そんな熱帯への憧れがファンタジーのうちに熟成された妄想のワールド・ミュージックだ。10数人のセッション・ミュージシャンが曲によって参加しているが、サウンドは彼らのコクが裏漉しされて、いたってシンプル。しかし、そこからはなんともいえない濃厚なムードが溢れている。なかでもデヴィッド・ブラウンの歌声は素晴らしく、カエターノ・ヴェローゾさえ彷彿とさせるようなエレガントさだ。

「本当に? それは最高のホメ言葉だな。僕は歌うときにはよく目をつぶるんだ。曲が僕に伝えてくるフィーリングをそのまま表現するためにね。人々を僕らの世界に招待するようにジェントルに歌うことにしてるよ」

そうした彼の歌声によって導かれるのは、東南アジアやラテン・アメリカを連想させるような熱帯地域。そこでは船乗りがナイフをキラめかせ、強烈なスパイスの匂いが裏通りを満たす。

「熱くて湿気がある気候が好きなんだ。そういった世界では生きているって感じが増してくる。とりわけインドネシアはすごく神秘的な場所だね。そこで経験することは、すごく世界を豊かに見せてくれるんだ。人々は苦しい状況にあるはずなのに活き活きしているし、アメリカにいるときよりも、悲しい気持ちにならずに済むよ」

10代をLAで過ごし、ドラッグに漬かった享楽的な日々を送っていた彼。ある時期彼は、旅に出ることによってそんな生活に見切りをつけ、ミュージシャンとして本格的なキャリアをスタートさせた。だからこそ南国の原色溢れる世界は、LAで生まれた彼にとって幻の故郷なのかもしれない。そして、旅こそは彼のスタート地点であり、イマジネーションの源なのだ。

もともとブラザヴィル結成のコンセプトには〈詩人やミュージシャンたちが貨物船に乗り合わせ、さまざまな国を演奏しながら周っていく〉という壮大なヴィジョンがあった。そのプランについて、「もう船も見つけたし、内装をデザインしてくれる建築家も見つけてあるんだ。この船がみんなの篝火になってくれればって思うよ」と語る彼。では、そんな彼がいちばん行ってみたい場所とは、いったいどんなところなのだろう。

「正直に答えるとヘンに聞こえるかもしれないけれど、すべてがベターな世界っていうのが、この世のどこかにすでにあるような気がするんだ。みんなが魅力的でいられて、そこには素晴らしい歌があって、空気もいい匂いで……。僕らが意識してないだけで、必ずそんな世界はある。みんな小さい頃によく見ていたような場所さ」

そういえば、マンゴスチンの話が出たときに、それじゃあブラザヴィルを食べ物に例えると? なんて強引な質問をしたら、「スモークド・フィッシュだね」と彼は答えてくれた。「僕が槍で突いて、火の上で一晩かけて料理したやつさ。とってもおいしくて長持ちするから、ポケットに入れて持ち運べるんだ」

そういうわけで、ポケットにブラザヴィルを詰め込んだら旅に出よう。誰もが知ってる〈あの場所〉をめざして。

ブラザヴィルのアルバムを紹介。

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