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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2002年04月04日 05:00

更新: 2003年03月18日 20:50

ソース: 『bounce』 230号(2002/3/25)

文/秋山 太郎

ウェスト・ロンドン発のキーボーディスト、エージェントKことカイディ・タサーン。多能ぶりでも知られる彼が、さらなるクロスオーヴァーを求め、ついにソロ・プロジェクト・アルバム『Feed The Cat』をリリースする!


「実はあの日が初めてのライヴ・セットだったんだよ」とカイディ・タサーンは照れくさそうに、それでいてうれしそうに話してくれた。それは去年、青山のクラブ、LOOPで体感したマーク・ド・クライヴローとのエキサイティングなライヴ・セッションについての話。スティックで正確に打ち出される、あの独特のウェスト・ロンドン・サウンド、いわゆるブロークン・ビーツと称されるファンキーな不定形のブレイクビーツを生で叩いていた名ドラマーに賛辞のつもりで言った一言への回答だった。ビックリである。誤解してもらいたくないので説明するが、カイディはウェスト・ロンドン・シーンに多くの人を着目させたネオン・フュージョンのメイン・クリエイターの1人であり、同シーンきっての名キーボード・プレイヤーである。でも、それを覆すくらいドラムもヤバかったのだ。いままでの常識だったら<マルチ>の一言で片付けてしまわれるのかもしれない。でも彼らは、その豊富なリスニング経験に裏打ちされたセンスでさまざまなことを実践する、いままでにない新しいタイプのミュージシャンなのだ。

「音楽は常に同じじゃない。わかるよね。俺自身もそうなんだ」。

それは音作りにも反映されており、アルバムを制作したのも「曲を作るときはもちろん、その曲への意味も大切なんだけど、思いたったイマジネーションの世界を形にすること、これが俺にとってはいちばん大事なんだ。ひとりでに身体が反応するっていうのかな」。 そして、今回のエージェントKとしてのアルバムについてはこう語っている。

「アルバムを作ったからって、なんかこれが全てだ!って完結してしまうのも嫌なんだ。あんまりそれだけに捕らわれないでほしいんだよね。エージェントKというのは単純なカイディ・タサーンのエイリアス(変名)ではないんだ。そのほうがいろいろと曲を作れるんだよね。自由に。アルバムのタイトルも重たい意味じゃなくて、『Feed The Cat』というのは要するに<金を見せてくれ>ってことなんだけど、これは掛詞みたいなもので、例えば小さいピザのかけらでもいい、それをくれたら俺のエナジー全てをあげるよ、ってことなんだ。わかるよね。ヴァイブを分けるみたいな感じかな」。

ただ、彼はあくまでも普通に話を続ける。

「俺ね、パトリース・ラッシェンやドン・ブラックマンやロイ・エアーズといっしょに演りたいんだよね」って感じだから、やられてしまう。さらに「本当音楽って凄いよね。俺をアゲてくれるんだもん。70年代、80年代のソウル、ジャズやヒップホップ、みんな大好きさ。でもその全てが一言でなんだ。とりわけ俺にとってのヒーローであるハービー・ハンコックやパトリース・ラッシェン、スティーヴィー・ワンダーたちは、俺に、<インフォメーション>をくれるんだよ。<エデュケーション>。とでもいうかな」。

そんな彼の曲を聴けば、確かにそれがわかる。打ち込まれたビートなのに暖かくて、ヴァイブレーションのある生き物のように感じる。

「ありがとう。それって最高の言葉だよ。俺にとってはラップトップもローズと同じ楽器なんだよ。俺はたいていリズムを初めに作るんだけど……あれ、そうでもないかな(笑)、突然フレーズが浮かんで歌い出して作るときもあるし。でもまぁ、ビートからだとしてもそれでキーボードに手を触れた瞬間に音が溢れてくるんだ。ストリングスやハープの音とか、もういろいろ! だから出来上がるのはすごく早い。わからないんだけど出来てしまうんだ。ハービー・ハンコックやハーヴィー・メイソンのようなジャズマンはそれを実践してきたと思うんだ。インスピレーションを形に変える。俺もそうしたいし、そうでありたいんだよね」。

そういった人物の傍にはさまざまなアーティストが集まるわけで、そのなかで今後注目されるであろうアーティストの参加にも触れておきたい。

「イジ・ダンはウチのレーベル(ビター・スウィート)からアルバムを作ろうと思っている素晴らしいアーティストだよ。キーボード・プレイヤーであり、ストリングスもいけるし、ベース、ギター、もちろん歌も。彼女には注目してほしいね」。

とにかく、アルバム全体を通して感じられるそのヴァイブレーションは、本当にオリジナリティーに溢れていて素晴らしい。インタヴューしたことで彼を含めたウェスト・ロンドンのヴァイブをまた強く感じ、共鳴を覚えた気がする。そんなふうに心がスピリチュアルになったところで、カイディが最後に一言。

「日本のみんな、ワールドカップを観に、たぶんディーゴといっしょに日本に行くよ。そのときに会おうね」。

普通だよね。すごい人は。

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