こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2002年03月21日 06:00

更新: 2003年03月13日 17:06

ソース: 『bounce』 229号(2002/2/25)

文/大石 始

軽やかな心地良さを湛えて、類いまれなセンスを外へと放出しはじめたTica。これまでのスタイルを知っている者こそ、新作『フェノミナ』を起こりうる現象として受けとめるべき!!


Ticaの〈センス〉とは、2001年のライヴ盤『A Night at Cafe Apres-midi』までは、それだけで彼らの音楽を特徴づけてしまうほどに印象的なものだった。ことTicaについては、〈なんとなくオシャレでイイ感じ〉な方々とは決定的に違い、そのセンスを〈発明〉と言い換えてもいいようなスタイルで、オリジナリティーを発揮してきた。例えばTicaのパブリック・イメージを良くも悪くも決定づけてしまったかもしれない、クラッシュの“Rock The Casbah”やポリスの“De Do Do Do, De Da Da Da”のカヴァー。思いきり有名で、それゆえに誰もがカヴァーすることをためらった楽曲たちを、彼らは堂々とTica色に染めてみせた。そこにあったのは、彼らにおける楽曲の再構築というセンス。それは彼らがもしも〈なんとなくオシャレ系〉だったら、即座に苦笑いの対象になってしまうという危険な賭けに勝利したということなのだ。それはカヴァー曲のみならず、松本隆作詞の“顕微鏡”(ファースト・フル・アルバム、『Weight-Less』に収録)のシティー・ポップス感を寸前で自身の楽曲にしてしまうやり口であったり、カフェ・アプレミディというヘタをすればみずからを〈カフェ・ミュージック〉のカテゴリーに制限してしまいかねない場所でのライヴ盤を発表したりと、危険な賭けに勝利し続けた彼らの類い稀なるセンス、そしてバランス感というものにこれまでは多くの人が虜になってきたのだ。 

しかしTicaは現在、大きく変わろうとしている。

「今回はよりたくさんの人に聴いてもらいたいという意気込みで作りました」 (武田カオリ、ヴォーカル)

「いろんなものを解放しましたね」(石井マサユキ、プログラミング)

なんのてらいもなく、そう話す2人。その言葉を証明するかのように新作『フェノミナ』は、軽快でアップテンポな

“Jet Setter”で始まる。ほぼハウス・ミュージックと呼んでも差しつかえないような、驚くほどにTicaらしくない(失礼!)曲だ。

「単純な話、ハウスが好きになってしまったんですね(笑)。今回、ガラッ と華やかな作品集にしたいと考えたときに、ハウスという枠組みにスポッと 楽曲をはめてみたらバッチリだったんです。別にこれまで、ハウスそのもの には、それほどこだわってたわけではなかったんですが、今回は突然降って 湧いたように」(石井)

その他の曲もこれまでのTicaのイメージとは違う、明るく突き抜けたポップでダンサブルなものばかりで、これまでのTicaがわずかに曇った晩秋の昼過ぎならば、新作は一点の曇りもない春空のような印象。これまでのTicaを特徴づけていた際立ったセンス、バランス感というものよりも、純粋な楽曲の躍動感、そして淀みなくストレートなポップさに驚かされる。しかし、これまでのTica の作品を考えると、このダンサブルなビート感は、やはり意外といえば意外だ。

「僕はTicaの前にもずっとバンドをやっていたんですけど、プログラミング に切り替えて以来、特定のジャンルに帰属してしまうことに多少の抵抗感が あった。それがライヴ盤までの流れですね。どこかにルーツはあるんですけ ど、それを聴き手にわかってもらわなくてもいいやっていう。だけどライヴ 盤での彼女との音楽制作において、なんとなくの結論は出せたかなという気 がした。そのときにバックグラウンドとなる場所を確立したいなと思ったん でしょうね」(石井)

アップテンポなビートに乗って歌う武田の歌声も、これまでのように憂いを含みながらも伸びやかで、スキップするように軽やかで弾んでいる。

「いままでのTicaって、とっつきにくい方もいたんじゃないかなと思ってた んですけどね。自分の好きなように歌ってると、なんか地味で(笑)。歌詞 の面でも、いままでは結構、自分のなかで完結していたり、受け身だったり したんですけど、〈自分でなにか行動を起こす〉というテーマの詩も書きま した。とにかく〈外に向ける〉っていうのが、今回の重要なテーマだったん ですね」(武田)

カフェから街へ。そんな単純な図式ではなかろうが、「実際のレコーディング作業よりも、全体のテーマ設定のほうで時間がかかった」(石井)という言葉のとおり、新作ははっきりとした着地点が設定されている。これまでは〈どこでもない場所〉に着地することを目的としていたかもしれないこの2人が、このニュー・アルバムでは、大地を踏みしめて〈どこか〉に歩きはじめたといってもいい。全曲がオリジナル曲で占められ、誰もが期待した(?)カヴァー曲も今回はいっさいナシ。

「カヴァーはどういうふうにアレンジしようか?とか、違う楽しみや発見はありますけど、カヴァー曲のほうが楽ですよね。気楽というか」(武田)

変化とは、それが本人の意図であるうちは寄り道のようなものだ。これまで、 2人が築き上げてきたもの、それを前提にしての自然な変化だからこそ、気負いがない。 「変化をそんなに恐れてないんですよ。ただTicaとして崩れようのない、どうしようもなく持っているものというのは無理矢理捨てても意味がないですからね。どんな手法でも採り入れればいいかといったら、それも違うしね。それはきちんと定めていきたい」(石井)

そういえば新作のタイトルは『フェノミナ』=現象。〈チャレンジ〉というよりも〈現象〉というさり気なさが、地に足の着いた彼らの変化を象徴してる、なんてのはこじつけだろうか?

「〈現象〉っていうと大袈裟で気後れするような印象があるかもしれないで すけど、日常にもさまざまな現象があるわけで……そういう意味で、この新 作はTica史上もっとも多くの人が関わってくれて、そのなかでさまざまな現 象が生まれ、出来上がったアルバムなんでしょうね」(武田)

本作『フェノミナ』は、方向転換でも、これまで2人が築きあげてきたものを捨て去るようなものでもない。ただTicaはいま、地に足を着けて目的地へと旅立ったばかりだ。その旅立ちに、これほどふさわしいアルバムもないだろう。

ロックとは?
「例えば、〈ディストーションを使っているからロック〉だとか言われてしまうと、ロックを聴いたことなくなってしまう。自分たちではこういう形でのロックもあるという、ちっぽけな自負もありつつ……」
──Tica

「ギタリストが2人ともロック・ギタリストだってところでしょうか? 僕らも含め、みんなただビートルズやストーンズが好きなガキだったんじゃないかなっていう気がするんですよ」という、ふたりが選んだ二枚は、左からナチュラルカラミティの94年作『SUN DANCE』(ファイル)とさかなの99年作『welcome』(WAX/徳間ジャパン)

Ticaのアルバムを紹介。

インタビュー