親しみやすいメロディーと抜群のソウル・フィーリング(2)
世界中を魅了したモダン・ポップ・サウンド
〈モダン感覚デュオから期待ワクワクのニュー・アルバム〉。これは彼らのアルバム(日本盤)につけられたキャッチ・コピーだ。とにかく彼らを説明するのにこの〈モダン〉なるフレーズは頻繁に用いられたものだった。なんてったってモダンなんだもん、そりゃあWAKU WAKUしちゃうのしょうがないじゃん? まったく不可思議な時代〈80年代〉をホール&オーツは〈モダン〉と書かれたバンダナ巻いて疾走することとなる。
「ジャケは最悪、でも内容は最高さ!」と、のちに2人が語っていた自信作『Voices』(80年、ちなみに邦題は〈モダン・ヴォイス〉)は偶発的にできた作品ではなかった。初のセルフ・プロデュース、蓄積されたさまざまな音楽知識と技術を集積し、ナウでイカしたセンスを注入して華麗に料理してみせることに挑み、それを成功させたのだ。そしてこの作品は祝福を約束されて生まれ出たアルバムでもあった。このころになると、GEスミスをはじめとするバンド・メンバーも固まり、彼らは自分たちの意図どおりのサウンドが得られるようになったとも語っている。蓋を開けてみればやはり大ヒット。そして、シングル・カットされた“Kiss On My List”の全米No.1ヒットの余韻が残るなかで、すぐさま『Private Eyes』(81年)、翌82年には『H2O』とハイペースでアルバムを発表していく。テクノでエレクトリックなポップ要素を流入させたこの時期のアルバムは、ヒット・チャート・ファンのみならず、マニアックで新しもの好きな音楽ファンの耳も捉えた。そして〈モダン〉の集大成的アルバムといえる『Big Bam Boom』(84年)を発表、すでに強大な影響力を持っていたMTVでのプロモ・クリップ効果も味方につけ、彼らの音楽は圧倒的人気を誇示することになる。ホール&オーツは、80年代に入ってからこの時点までのたった4年ほどの間に、12曲の全米トップ10ヒットを放ち、なかでも“Kiss On My List”“Private Eyes”“I Can't Go For That(No Can Do)”“Maneater”“Out Of Touch”という5曲をNo.1に輝かせた。しかし、ルーツ返礼をおこなった『Live At The Apollo』(85年)あたりから、彼らは走るスピードを緩めていく。
まだまだ広がり続ける彼らのポップ・ミュージック
彼らのアルバム・リリースを追っていくと、ざっと3枚ごとにテーマをつけて区切ることができる。まずはアトランティック時代の〈フォーキー/サイケ・ロック〉路線、RCA前期は〈ロックン・ソウル〉、『Along The Red Ledge』からの中期は〈AOR的テイスト〉、『Private Eyes』からの3枚は〈いわゆるモダン・ポップ〉というように。そしてそれ以降、現在までのアルバム――アリスタ移籍後の『Ooh Yeah!』(88年)、『Change Of Season』(90年)、沈黙ののち、突然のコンビ復活に驚かされた『Marigold Sky』(97年)――になにか名付けるとしたら〈オーソドックス〉といったところか。90年代に入り、ホール&オーツとしての活動休止を繰り返していた彼ら。しかし、ホールは『Soul Alone』(93年)、『Can't Stop Dreaming』(97年)という2枚のソロ・アルバムで、最先端サウンドの追究をおこなっており、頼もしい姿を示している。それだけに『Marigold Sky』のオーソドックスさにはいろんな意味で泣けた。
「僕らのなかにあるポップ・ミュージックというものの境界線を引き延ばした」(ジョン・オーツ、ともに同アルバムのライナーノーツより引用)。
こんな発言を聞いてしまうと、無性に恋しくなるではないか。また新しい音を届けてくれるのを待ってるよ、いつまでも。
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