Faith Evans(2)
全方位に発揮される実力
実はフェイス、今回はバッド・ボーイと改めて契約し直したのだとか。つまり育児休暇からの復職。で、新作のレコーディングは、マイアミを皮切りに、LAやNYでもおこなわれた。制作陣にはパフィーやチャッキー・トンプソンといった馴染みのスタッフに加え、レーベル・メイトのマリオ・ワイナンズ、外部からはP・ディディーの『The Saga Continues...』(カール・トーマスとの共演曲“Can't Believe”はここにも収録)でも起用されていたネプチューンズやバックワイルド、さらに西海岸シーンの〈いま〉を担うバトルキャットらが参戦している。前作同様、80年代のR&Bクラシックをベタ敷きした曲があるかと思えば、メロウなジャズ~フュージョン・ネタでジャジーに酔わせる曲があったり、果てはアウトキャストやモブ・ディープらの曲を引用したものまで、こうしたバッド・ボーイらしい〈大ネタ使い感〉が今回も耳を惹く。従来のヒップホップ・ソウル的要素を残しつつも、そこに新しい時代の息吹を込めたかのような前向きな姿勢が、この新作からはヒシヒシと感じられるのだ。中でも、亡き夫ビギーの“Who Shot Ya”をサンプリングした“Alone In The World”は、以前から彼女を知るリスナーにとってはひときわ感慨深い曲となるだろう。
「こういうやり方がビギーに敬意を表するいちばん良い方法だと思ったの。実際に彼のことを歌うよりもね」。
もはや悲しみにくれている場合ではない、と。もちろん過去の出来事を忘れてしまったわけではないが、ここにきてまで未練がましい想いを引きずることもなかろう、というわけだ。実際、最愛の夫と3人の子供に囲まれている現在の彼女は、いま人生でもっともハッピーな時を過ごしているという。それでも、“Do Your Time”のような〈投獄された友人を励まし、その人の帰りを待つと約束する〉なんて切なげな内容の曲を歌っているあたりが、これまたフェイスらしくもあったりするのだが。マイケル・フランクス“Never Say Die”を使った“Where We Stand”での悩ましげなムードなんかも、デビュー当時の彼女を思わせて、たまらなくいい。
さらに興味深いのは、ローリン・ヒルのアルバムに全面関与していたヴァダ・ノーブルズが、ジャズっぽい雰囲気の“Love Can't Hide”のプロデュースを(フェイスと共同で)手掛けていること。ジル・スコット以降のジャジーR&B路線を狙ったものかどうかはわからないけど、これはネプチューンズやバトルキャットといったビートメイカーの起用と並んで、彼女の〈時代の最先端を走りたい〉願望を叶えた一曲であるような気もする。そう考えると、ヒップホップ・ソウルに始まり、コンテンポラリー・ゴスペル界への参入(カレン・クラークとの共演など)、新世代ビートとの絡み、オーガニックな装い……と、フェイス・エヴァンスとは、実に全方位型のシンガーであることに気付く。とはいっても、決して八方美人になっているのではなく、トラックがどうあれフェイスの個性はしっかりと貫かれているし、当然のことながら歌唱力も揺るがない。こうまで自分の世界を持っているフェイスは本当にすごいし、ステキな存在だと思う。だからこそもっといろんなタイプの曲にチャレンジしてわれわれを楽しませてほしいところだが、まずは今回の新作がその前哨戦ということで、これからのフェイスにかける期待はますます膨らむばかりである。
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