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幾多のドラマを乗り越え、ファースト・レディーが帰ってきた

泣くのをやめたかった

「多くの人は、私が内向的で静かな人間だと思っているみたい。ミステリアスで暗い、って言う人もいるわ。でも、私はそうじゃない。……感じていることを音楽として表現しているだけよ」。

確かにフェイス・エヴァンスほど〈悲哀〉という言葉が似合う女性R&Bシンガーもいないかもしれない。いや、そんなことを言われても本人は嬉しくないだろうが、95年に『Faith』でデビューしたときから、彼女の歌や楽曲には一音一音が身に沁みてくるような切なさや翳りがあった。だが、その声は聴く者をただ悲しみの淵に追い込むのではなく、気分を安らげてくれるというか、側に寄り添うかのような温もりをも与えてくれる。そう、包容力のある歌声なのだ。

「デビュー当時は本当に幸せな恋をしていたの。ビギーが私を女王様のような気分にしてくれた。確かに傷ついたり悲しんだり……といった歌もあったけど、蝶のように浮かれていた気分を反映した曲もあったわ」。

東海岸ヒップホップの覇者=ビギーことノトーリアスBIGとの幸せな新婚生活。が、それも束の間、東西ラッパーによるディス合戦が招いた(とされる)ビギーの死により、彼女の私生活はおろか、一時は歌手生活までもが危機にさらされたことも。

「ホントにいろんなことで頭がいっぱいだった」とは、98年のセカンド・アルバム『Keep The Faith』制作時を振り返っての感想である。アルバムごとにドラマがある……とは、どのシンガーにも言えることだが、フェイスほどそのことを強く感じさせるシンガーもそうはいない。

……そして、今回も3年間のインターバルを挟んでの新作発表。リリース元はもちろんバッド・ボーイ……と、こう書けば、従来と変わらない環境でアルバムが制作されたのだろうと思われるかもしれない。が、今回の〈3年間〉は、これまでとはちょっと違った。

「過去を振り返って泣くのをやめて、いままでと違うことをしたかった。そこで夫はすごく助けになってくれた」。

ここでの〈夫〉とは、現在、彼女のマネージャーを務めているトッド・ラッソウのこと。そう、彼女は再婚した。そして、「ビジネスとプライヴェートをハッキリと分けたかったから」と、地元のニュージャージーからジョージアへ移住、ビギーの愛児を含む3人の子供の子育てに専念していたという。だが、その合間を縫って、彼女は2年前からトッドとともにデモ・テープを作り始めてもいて、結果、それが今回の新作『Faithfully』の土台になった。

「いままでみたいに、ただパフィー(P・ディディー)が用意してくれるトラックを待っている、というのは嫌だった。今回は私と夫のチームなの。……ロスで10曲ほど録ったものをパフィーに聴かせたら、彼は〈ワォ! 遊びじゃないんだな〉って言ってくれたわ。新作にかける意気込みが伝わって、私のことをさらにリスペクトしてくれたみたい」。

フェイス・エヴァンスのアルバム

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2001年12月06日 04:00

更新: 2003年03月07日 18:41

ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)

文/林 剛

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