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After She Left...

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2001年11月15日 15:00

更新: 2003年04月02日 14:44

ソース: 『bounce』 223号(2001/7/25)

文/渡辺 亨

そして、ローラが残していったもの

ただ単にピアノでコードを押えているだけなのに、ローラ・ニ-ロ以外の誰でもないと確信させる。こんなアーティストは、現在のミュージック・シーンにいったい何人いるだろうか?――『Angel In The Dark』の冒頭を飾るタイトル曲のイントロを聴いて、真っ先に頭に浮かんだのはこんなことだった。

『Angel In The Dark』は、97年に卵巣癌で亡くなったローラ・ニ-ロの〈遺作〉である。だが、この遺作は、聴き手の余計な感傷をはねつける。なぜなら『Angel In The Dark』は、76年の『Smile』以降のアルバムのなかでは最高の仕上がり。よって感傷的になる前に、音楽そのものの説得力に圧倒され、心の底から感動が沸き上がってくる――このような奇跡的な傑作だ。もちろん、若いころにくらべると、歌声の瑞々しさは失われているし、ピッチがいくぶん不安定な箇所も見受けられる。が、子供のころからR&Bやドゥ-ワップに触れていたことによって培われたローラのソウルフルな節回しやリズム感覚は、終生変わらなかった。『Angel In The Dark』は、かつて天才少女と謳われた女性が天才のままで生涯をまっとうしたことを証明するアルバムだ。とりわけピアノの弾き語りで歌われる“Serious Playground”は、まさに音楽に人生を捧げたローラの気高く熱い魂(ソウル)が封印された曲で、心が震える。


このような素晴らしい遺作が届けられた2001年は、「Eli's Comin'」というミュージカルが上演された年でもある。今年4月から7月にかけてNYのオフ・ブロードウェイで上演されたこの「Eli's Comin'」は、ローラの曲だけで構成されたミュージカルで、彼女の歌世界そのものを表現しつつ、ひいてはその源となったNYをくっきりと浮かび上がらせた作品だ。この事実が物語っているように、ローラはいまも人々の記憶のなかで生き続けている。きっと天国にいる〈暗闇の中の天使〉も微笑んでくれていることだろう。


ローラ・ニーロのラスト・レコーディング集となる『Angel In The Dark』(Roadrunner)。バーナード・パーディーら名うてのジャズ・ミュージシャンとのセッションを交えつつ、キャロル・キングのカヴァーなども収録されている

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