Talk About LAURA in Cafe Apre-midi(2)
橋本「生き方と音楽活動がリンクしてる。だから、幸せなときには『Smile』とか『Nested』をリリースしたり、子供を産んでフェミニズムの思想に傾倒しているときには『Mother's Spiritual』を出したり、そのときの彼女の生活とか人生がそのときどきのアルバムにこんなにわかりやすく反映される人もいない(笑)。それと同時に、僕は激しい情念が和らいでいく過程もすごく魅力的だと思ってるんだけど」
石井「でも、ヴァーヴから出た『More Than A New Discovery』は、ヴァーヴがジャズを扱ってたレーベルってことを考えるとすごい意外な作品だけど、このレーベルはのちに、これまた意外なヴェルヴェット・アンダーグラウンドを手掛けるわけじゃないですか。で、この2枚って音が似てるんだよね。多分、スタジオとかエンジニアがいっしょなんじゃないの?っていう。それから彼女をCBSに売り込んだデヴィッド・ゲフィンがアサイラムを立ち上げて、ジュディー・シルを手掛けるじゃない? 彼女も歌のテンポによってバックを変えたりするし、シャッフル・テンポが多かったりっていう作風はローラ・ニーロ直系だよね」
橋本「そうそう。ローラ・ニーロの初期ってシャッフル系が多いんだよね。だから、いまのクラブ・シーンでは踊り辛くてNGなはずなのに、なぜか愛されてるっていう。そういう意味ではカフェで聴いてこそ、その魅力が際立つアーティストなのかもしれない。夜、お客さんが減ってきたときにかけたり、『Gonna Take A Miracle』なんかはピーク・タイムでもいい雰囲気になるし」
石井「そうですね」
橋本「『Gonna Take A Miracle』以降、『Smile』とかライヴ盤の『Season Of Lights』のころになると、なんだか神秘性が薄れて、聴き手に緊張を強いる雰囲気はなくなってくる。このキャロル・キングとかに接近してる感じって、午後のカフェで聴いてもハマるし、リラックスできる。ヴォーカルの表現力に関して言えば、キャロル・キングみたいなヘタウマの魅力とはまた違うけど(笑)」
武田「ソプラノがすごくきれいで」
橋本「やっぱり、そこは10代前半からブロンクスの街角で黒人たちに混じって歌ってただけのことはあるし、声が流れた瞬間に場の雰囲気を変えられる存在感がある」
石井「しかも、キャロル・キング同様、作曲能力も高く買われてたわけで、実際、いろんな人にカヴァーされてるでしょ」
橋本「黒人にカヴァーされる白人のソングライターの成功例だよね」
石井「いちばん印象的なのはフィフス・ディメンションの“Stoned Soul Picnic”……実はカヴァーしてたんですよ。TICAでっていうよりも、武田にライヴ経験が全然なかったころ、横浜のコーヒー・ハウスで月イチで演ってて、そのときの持ち歌だったんですよ」
橋本「すごく聴きたいな(笑)。それはハマりすぎるからやらなくなったの?」
武田「それもあり」
橋本「TICAってみんなそうじゃん! だって、シャギー・オーティスやテレヴィジョンもやってたんでしょ? シンディー・ローパー“Time After Time”のボッサとか、大貫妙子“都会”のグラウンド・ビートとかも。すごいハマるじゃない(笑)」
石井「逆にハマりすぎちゃって」
武田「でも、TICAには“Stoned Soul”っていう曲があるし(笑)」
橋本「少しは聴き手にヒントをあげないとね」
――ローラ・ニーロに限らず、カヴァー曲が聴きたくてCDを手に取る人も多いですからね
橋本「今度リリースされるTICAの『A Night at Cafe Apres-midi』もそうなればいいよね」
Various Artists『Talkin' Loud Meets Free Soul』(ユニバーサル)
橋本 徹
サバービア・ファクトリー主宰、カフェ・アプレミディ店主。96年から99年までbounce編集長を務める。現在は、渋谷に開いたカフェ、〈カフェ・アプレミディ〉と同名の選曲CDや有線チャンネルも大好評。フリー・ソウル・コンピレーションの最新作『Talkin' Loud Meets Free Soul』(ユニバーサル)がリリースされたばかり。「これは本当に素晴らしい!全曲最高!」とは本人の弁
TICA
2000年5月のデビュー以来、ルーツ・ミュージックへの並みならぬ愛情を、リアルタイムの空気と混ぜ合わせながら優れたポップ・ソングへと昇華させてきたTICA。とくにローラに対しての思い入れは深いようで、橋本氏との対談も終始弾んだよう。対談中も触れられていた、カフェ・アプレミディでの〈真夜中のライヴ〉を収めたアルバム『A Night at Cafe Apres-midi』は8月22日にリリース予定!
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