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ニコラウス・アーノンクール(1929~2016)~CDとDVDで振り返る偉大な業績

アーノンクール特集

緊急発売~ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス2015年7月ライヴ

2016年3月5日にその86歳の生涯を閉じたアーノンクールが、自らの音楽人生の総決算と考え発売を熱望していたベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」。2015年7月、グラーツのシュティリアルテ音楽祭におけるライヴ・レコーディングです。
2015年7月4日~6日にかけて行なわれた公演は、手兵コンツェントゥスとAシェーンベルク合唱団、選り抜きの歌手陣を揃え、オーストリア放送協会によってTV生中継も行なわれ、大きな話題を呼びました。アーノンクールはさらに7月22日、ザルツブルク音楽祭で「ミサ・ソレムニス」をもう一度指揮しており、これがアーノンクールにとって生涯最後の演奏となりました。

交響曲第40番ト短調K.550は私にとって“運命の曲”です。1969年にウィーン交響楽団を退団した理由も、死を意味する調性のト短調で書かれた曲を得意満面に振る指揮者、ニコニコ体を揺すりながら聴く客席に挟まれ、チェロを弾くことに耐えられなくなったから。以来、年金生活を棒に振り、いばらの道を歩んできた点でも、まさに運命の1曲なのです。
ニコラウス・アーノンクール

池田卓夫氏による「ニコラウス・アーノンクール・独占インタビュー」
いずみホール音楽情報誌Jupiter Online掲載記事より、著者の許可を取り一部編集し引用

 

20世紀における古楽演奏の偉大なるパイオニア、指揮者、チェロ奏者のニコラウス・アーノンクール氏(1929年12月6日 ベルリン生~2016年3月5日 ザルツブルク近郊没)が亡くなりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

2016年、今年はクラシック界におけるラディカルな改革者が、これで2人亡くなったこととなります。1人は1月5日に亡くなったフランスの作曲家、指揮者のピエール・ブーレーズ氏(1925年3月26日 - 2016年1月5日)。そしてもう一人がアーノンクール氏です。

方法論は異なりましたが、2人とも、ともすれば旧態然とした"伝統芸能"に陥りがちなクラシック音楽に対し、ブーレーズは「オペラ座を破壊せよ!」「伝統など何の価値も持たない」、アーノンクールは「今日では音楽は単なる装飾と化してしまった」「われわれが文化全般にわたって破滅へ向かっている多くの兆候がある」などと、時に過激な発言を行い、音楽界の人々や聴衆を挑発しつつ、自らの主義主張を実践した演奏やオペラ上演を行い、内側から改革を断行しました。

ブーレーズは自ら設立したアンサンブル・アンテルコンタンポランによりエトヴェシュ、ロバートソン、ノットらの優れた指揮の後継者を生み出し、アーノンクールも自ら設立したウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(CMW)やザルツブルク・モーツァルテウムでの講義により多くの古楽奏者を輩出しました。

また、ブーレーズやアーノンクールの出現により、破壊の対象(?)だったパリ・オペラ座やバイロイト音楽祭、ザルツブルク音楽祭など、多くのクラシック音楽の伝統の場が刷新され、21世紀に受け継がれることになった、と言ってもよいかも知れません。

ここではCD、DVDを年代順に追うことにより、アーノンクール氏の偉大な足跡と業績をともに振り返りたいと思います。

1960年代まで

ベルリンで貴族の家系に生まれ、オーストリアのグラーツで育った彼は、ウィーンでチェロを学びました。1952年、ヘルベルト・フォン・カラヤンが常任指揮者時代のウィーン交響楽団のオーディションを受け、第11番目のチェロ奏者として合格。同時に古楽演奏の研究、オリジナル楽器の収集にも力を注ぎ、1953年には妻でヴァイオリニストのアリスとともにオリジナル楽器演奏団体、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(CMW)を結成し、4年間の研究を経て1957年に初のコンサートを開催しました。彼はCMWの活動に注力するため、ウィーン交響楽団の上席チェロ奏者の座を断ったという逸話が残っています。また、1969年にはページ冒頭のインタビューにあるように、ウィーン交響楽団を退団しました。

【録音活動】
CMWとは、1954年、ヴァンガード・レーベルへのアルフレッド・デラーとの共演になるエリーザベス朝とジェームズ1世時代の音楽によって、その長い録音歴を開始した。1960年代前半までアマデオ、ドイツ・グラモフォン、ドイツ・エレクトローラなどのレーベルにいくつかの録音を行った後、1963年から独テレフンケンの古楽専門レーベル、"ダス・アルテ・ヴェルク"で本格的なレコーディング・プロジェクトを開始しました。

 

1970年代

チューリヒ歌劇場を中心に古楽器演奏によるオペラの指揮も始め、名演出家のジャン=ピエール・ポネルと組んだモンテヴェルディとモーツァルトのシリーズを上演して注目を集めました。また1970年代からは、復活祭に演奏されるバッハの受難曲の演奏をきっかけにアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)を指揮するようになり、一連のモーツァルトやハイドンの演奏で大きな注目を浴びるようになりました。
1972年から1993年まで、ザルツブルク・モーツァルテウムで演奏実践に関する講義を行い、著書も日本語訳が出版された2冊(邦題『古楽とは何か──言語としての音楽』[1982年]および『音楽は対話である』[1984年])を発表しました。
【録音活動】
アーノンクールが"四季"や"水上の音楽"など、モダン楽器により演奏され尽くしてきた名曲を録音し、古楽器合奏による新鮮な響きと、そのスリリングな解釈により、多くの音楽ファンにその名を知られるようになりました。この頃、日本で彼の名はハルノンクールと呼ばれ、その衝撃は「ハルノンクール・ショック」という言葉で広まりました。また、1971年には、1990年まで20年がかりでグスタフ・レオンハルトと共同で完成させることとなる記念碑的なバッハの教会カンタータ全曲録音をスタートしました。

 

1980年代

1980年11月に待望の初来日。名門ウィーン・フィルとの緊密な活動を開始。モダン楽器のオーケストラへ本格的に進出します。また、1985年には生地グラーツでシュティリアルテ音楽祭を創設し、偉大な作曲家たちの作品の新たな演奏を披露。探究心旺盛な多くのファンがその成果を聴くために毎年夏、グラーツを訪れるようになりました。
【録音活動】
1980年代からはコンセルトヘボウ管弦楽団とのモーツァルトの後期交響曲の衝撃的な録音が大きな話題となり、次いでハイドンの交響曲のツィクルスも開始しました。

 

1990年代

ベルリン・フィルを指揮するようになり、ヨーロッパ室内管弦楽団との緊密な活動も開始。演奏レパートリーもベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ブルックナー、ブラームス、ドヴォルザーク、そしてヨハン・シュトラウス2世、ヴェルディ、ワーグナー、ベルク、バルトークの作品へと広がってゆきました。
【録音活動】
ヨーロッパ室内管弦楽団とのベートーヴェン、シューマン、メンデルスゾーン、ウィーン・フィルとのブルックナー、ベルリン・フィルとのブラームスなど、古典派~ロマン派の主要交響曲を次々と録音しました。

 

2000年代より

2003年夏からはBMGクラシックス(現ソニー・クラシカル・インターナショナル)と契約を結びました。最晩年になってますます意気軒昂なアーノンクールの姿を刻印した、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、CMW、ヨーロッパ室内管、バイエルン放送響とのさまざまな録音を発表しました。
モーツァルト生誕250年を記念する2006年には、ザルツブルク・モーツァルト財団の「アーティスト・イン・レジデンス」に任命されました。2007年にはライプツィヒ・バッハ・メダルを受賞。 
「時差」嫌いのため1980年以来、長く来日が途絶えていましたが、2005年秋の第21回京都賞(思想・芸術部門)受賞に際して久々の来日を果たした後、2006年10月から11月にかけてのウィーン・フィルおよびCMWとの公演のために来日、さらに、2010年10月から11月にかけて最後の来日公演を行い、日本の音楽ファンに大きな感銘を与えました。
著作ではモーツァルトをめぐる講演、インタヴュー、エッセイをまとめた『Mozart Dialoge.Gedankenzur Gegenwartder Musik』(Residenz Verlag 2005)、主にベートーヴェン以降の作曲家をめぐる対話集である『Tonenesindhoehere Worte』(Residenz Verlag 2007)を発表しました。
2015年12月5日、86歳の誕生日の前日に演奏活動からの引退を表明し、2016年3月5日に逝去、享年86歳。
【録音活動】
スメタナの"わが祖国"の新解釈が高く評価され、20世紀アメリカ音楽のガーシュウィンを初録音するなど、レパートリーはいっそう拡大。一方で手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとのモーツァルト、ベートーヴェンで巨匠の最終結論を印象づける圧倒的な名演奏を聴かせてくれました。
冒頭に掲げたモーツァルトの第40番ト短調を含む交響曲第39~41番は、やはり古楽指揮者のブリュッヘンの第39~41番と同時期に発売されれ、大きな話題を呼びました。また、ベートーヴェンの交響曲全集制作を目指したツィクルスも開始されましたが、2015年12月5日の突然の引退声明により、第1弾の第4番&第5番が"最後の録音"となり、2016年2月に発売されたばかりでした。
(タワーレコード)

 

 

Beethoven: Symphony No. 5 / Harnoncourt · Berliner Philharmoniker
Recorded at the Berlin Philharmonie, 29 October 2011

カテゴリ : Classical

掲載: 2016年03月07日 15:00

更新: 2016年04月25日 00:00