こちらは10インチ仕様のアナログLP盤になります。真夜中のリラックス・タイムが待ち遠しい、逆らいがたく、得難い魅惑。テナー・サックスの味わい深い語らいにただ耳を傾け、浸るのみ…。大晦日からのカウントダウン、新年を迎えるその瞬間、横浜港に停泊する全ての船が一斉に汽笛を鳴らす。人ごみを避けその音を少し離れた本牧埠頭のはずれで聞く。静寂のなか切々と胸に染みいるその汽笛の音は様々な音色を奏でる。それを聞くたびに頭に浮かび上がるのが、ズート・シムズである。ズートの生涯を通して、最高傑作に挙げられる本作は、自身3度目の訪仏の折パリのデュクレテ・トムソンに、相棒、ジョン・アードリーとともに、フランス・ジャズ界の貴公子、ズートとは同年のアンリ・ルノー・トリオとの共演である。オープニングはルノー作曲の「Captain Jetter」当時はやりのウエストコースト・サウンドをアンサンブルに取り入れた名演だ。B1はこのアルバムいやズートのバラード・プレイの中でも随一の「Evening In Paris」だ。クインシー・ジョーンズによるもので、ズートのワンホーンで演奏される。誰もがこの名演の虜となったことは、ズート・ファンではなくてもその心を奪われてしまう。ここでのズートの音は深海のように深い。B3「My Old Flame」もバラード、こういうフレーズをつくりあげるセンスとその楽器の鳴らし、マウスピースの操作等、正に一級品だ。（CD版ライナーノーツより抜粋：Text by 足立 豪樹）
澤野工房

発売・販売元 提供資料 （2010/07/29）