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藤原ヒロシ×マイケル・ジャクソン

連載
360°
公開
2010/06/23   17:47
更新
2010/06/23   17:48
ソース
bounce 321号 (2010年5月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/二木 崇

 

藤原ヒロシとK.U.D.O.が提案する、新しいマイケル・ジャクソンの響き

 

藤原ヒロシ -A

 

「きっかけは、やはり“Ben”のリミックスでしたね。子供の頃に映画〈ベン〉を観ていたこともあって、個人的にシンガー=マイケルの存在を知るきっかけにもなった曲ですし、あの曲を狙っていたリミキサーもいなかったし、実際ああいった方向性のアプローチも他になかったので」。

その〈きっかけ〉とは、マルチ・テープに手をつけてOK!というルールの下に制作された国内外のクリエイターたちによるリミックス・コンピ『Soul Source JACKSON5 REMIXES 2』(2001年)収録のHF&K.U.D.O.による“Ben(HF Remix)”だ。それは、80年代からすでに〈リミキサー〉という肩書きを持っていたHFが、自身のなかでも「リミックスに対する考え方が変わった」というくらいのベスト・ワークとなった。あのフロアとは無縁かと思われた名バラードが、こんなにも荘厳なアコースティック・ダブに生まれ変わるなんて……と反響の大きさも凄まじかった同リミックスは、MJの死後、そのリミックス企画のベスト盤が組まれた際にも(アナログ・オンリーだった)別ヴァージョンが収録されることとなり、当の本人=HFはそれを快諾するだけでなく、逆に「リミックス・アルバムを作りたい」と提案する。つまり、“Ben”のリミックスを手掛けたことが、結果的にこのアルバムへと発展したのだった……。

「リミックスという言葉が独り歩きするようになった頃は、いかに崩して違うものにするか、ということを重視していました。その違和感さえも醍醐味だと。でも、ベースやドラムをイコライジングしたり、イントロを長くしたような、ダンス・ミュージックならではのリエディットが出はじめてからはそういうカッコ良さ、おもしろさに目覚めて……、曲を作るようになってからはアレンジというものをより意識するようになったんです。“Ben”のリミックスは、原曲の音素材を活かしつつ新しいものにできたので満足度は高くて、その手法を使ってアルバムとしてまとめてみたかったんですよね」。

その時点で彼の頭の中には確固たるアイデアがあった。それは、それらの楽曲があたかも最初からレゲエ・ヴァージョンだったかのような〈自然さ〉にこだわったリミックス、だった。ここ日本でリミキサーという存在を職業レヴェルにまで高めたDJの先駆けだったHFが、リミキサーとして辿り着いたのが、このマルチのセッション・データからパートを抜き出し、ヴォーカルのピッチをいじらずにすべてをアレンジし直す、という究極のスタイル。それはとてもラップトップ1台で制作されたとは思えないほどの温もりがある、タイムレスなクラシック感すら漂う仕上がりなのだから恐れ入る。しかも、その元音源は70年代初頭に、当時のヒット・ファクトリー=モータウンが送り出した最高峰のお宝ばかり。天下のリミキサーとしての血が騒がなかったはずがない、というものだろう。

「モータウン時代の音源を全部聴き直して、レゲエにアレンジできるものを前提に選曲したんです。テンポ的にレゲエになりにくい“I Want You Back”は別でしたが(笑)。“Happy”や“Love Song”も、こんないい曲だったんだな、と再確認できたし、とにかくマイケルのヴォーカルやコーラス、ストリングスやギターのアレンジもいちいち絶妙で素晴らしくて。構成を含めてオリジナルが完璧なだけに、それを無理のないリミックスとして成立させたかった。実際に1曲目の“We've Got A Good Thing Going”は、シュガー・マイノットの歌ったレゲエ・カヴァー(全英1位)のほうが印象が強いし、そこは当時のキッズ・レゲエ・バンドのミュージカル・ユースをスライ&ロビーが手掛けたみたいに……とか、実際に音を組み上げてくれた工藤くん(K.U.D.O.)に具体的なアイデアを伝えて。彼とはニューウェイヴとかレアグルーヴとか、通ってきたところがほとんど同じですし」。

 

MichaelJackson -A1

 

最終的にいっしょにスタジオに入り、肝心要の〈最後の詰め作業=エディット〉を行ったという2人。MAJOR FORCE時代を跨いで、かれこれ27年以上の仲になるK.U.D.O.とのやりとりはまさに阿吽の呼吸そのものだったとか。そう、これは“Ben”のリミックスから続く2人名義の作品なのだ。そこには当然2人の〈想い〉があるわけで。

「僕らにとってもこの時代の魔法のような音源に改めて向き合うことは有意義で、新鮮でした。原曲に思い入れのある世代や、昔のマイケルを知らない若い世代、レゲエに馴染みのない人たちにもそう感じてほしいですね。リミックスというよりもレゲエ・ヴァージョンと捉えてもらっていいし、ある意味ベスト盤のようなものだと自分では思ってます。あと、ダブ・アルバムのほうは、元のヴォーカルもかなり残してダブワイズしているので、ただのインストではもちろんないし、凄く気に入ってるので、これが初回限定なのはもったいないな、と(笑)」。

 

藤原ヒロシ

64年生まれ。伊勢市出身の音楽プロデューサー。80年代からDJ活動を開始し、並行してリミキサーとしても知られていく。今回の『Hiroshi Fujiwara & K.U.D.O. Presents Michael Jackson/Jackson 5 Remixes』でもタッグを組んだK.U.D.O.らと88年にMAJOR FORCEを設立。以降はさまざまなユニットで活動。ちなみにDUB MASTER Xと組んだLUV MASTER Xとして“Don't Stop Til You Get Enough”をカヴァーしたこともある。日本におけるアンビエント・ダブの先駆者であることもここでは付け加えておきたい。*編集部

 

マイケル・ジャクソン

58年8月29日生まれ。インディアナ州ゲイリーのエンターテイナー。兄弟と組んだジャクソン5として68年にデビューを果たす。69年にモータウンと契約して一躍ブレイクし、71年にソロ・デビュー、そして……今回のリミックス・アルバム『Hiroshi Fujiwara & K.U.D.O. Presents Michael Jackson/Jackson 5 Remixes』は彼のモータウン時代の音源をベースにしたもの。上で紹介しているように毎月何かしらのトリビュートが届けられている状態ですが、この後にはエピック時代の決定版リイシューも登場します! *編集部

 

▼近着のマイケル関連盤をナヴィゲート。

左から、リビー・ジャクソンの2in1リイシュー盤『Centipede/Chain Reaction』(Superbird)、トレインチャの『Never Can Say Goodbye』(Blue Note/EMI Music Japan)、NATOの『13 BEATS TO DIE』(STREET OFFICIAL/NEW WORLD)、土岐麻子の『乱反射ガール』(rhythm zone)

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